人工膝関節全置換術における術後屈曲角の予測 ―第一報―

DOI

この論文をさがす

抄録

【目的】<BR> 近年、人工膝関節全置換術(以下、TKA)後の膝関節屈曲角(以下、屈曲角)の影響因子に関しては多数の報告がある。しかし術後どの程度の屈曲角が得られるかという問題に関しての検討は少ない。<BR> 当科では術後屈曲角の目標を120°としてきたが、臨床的に屈曲角の回復が不良で在院日数が遷延する症例が散見された。しかし、その多くは近年の屈曲角に対する影響因子を考慮すると、屈曲角が得られ難い症例であったことがしばしばあり、また術前の状態が良好な症例に関しては目標が低すぎる印象もあった。そもそも屈曲角目標値は如何にして定めるべきであるか。120°という基準はADL動作の解析から導き出された数値であり、個人の状態を考慮した値ではない。<BR> そこで今回、よりよい術前説明や術後目標角度設定を目的に種々の影響因子から術後屈曲角の予測を試みた。<BR>【方法】<BR> 対象は2002~2003年にかけて膝OAにてPS型TKA(NexGen LPS Flex Mobile)を施行した103例中、1年間経過観察し得た88例とした(年齢72.4±5.8、男性10、女性78、follow up rate 0.854)。<BR> 方法は重回帰分析のステップワイズ法を用いて種々の因子から実際に影響の強い因子を抽出し、まず術前因子のみを用いて4週時屈曲角の予測式を、次いで術前・術中・術後因子を用いて1年時屈曲角の予測式を作成した。検討した因子は年齢、性別、BMI、術前屈曲角、術前伸展角、術前OA stage(北大分類)、術後4週時屈曲角、コンポーネントの設置角, joint line, 膝蓋骨の厚さ・高さ(PH), Insall-Salvati(IS)比, FTA, Posterior Condylar Offset術前後値, 変化値とした。<BR>【結果】<BR> 術前因子による予測式は1) 4週時屈曲角=81.530-術前伸展角×0.156+術前屈曲角×0.187+術前IS比×14.855(P<0.001, R=0.506, R2=0.255)、術前・術中・術後因子を用いた予測式は2) 1年時屈曲角=47.991-0.844×BMI+0.217×術前ROM+0.652×4週時ROM+0.429×PHの変化値-0.238×FTAの変化値(P<0.001, R=0.783, R2=0.613)となった。各々の予測式において算出された予測値と実測値の相関係数はそれぞれ0.506、0.783となった。<BR>【考察】<BR> 本予測式により、概ね良好な精度で症例の状態に即した目標値を提示可能となり、これは術後屈曲角の管理における一つのよりよい指標となり得ると考える。また、本予測式の説明変量を鑑みると、多くの先行研究で報告されている影響因子や我々の経験則をよく反映しているものであることがわかる。<BR> 現在臨床現場では術前に術後4週時(退院時)の大まかな予測値を、また退院時には修正されたより確かな1年時予測値を目標値として患者様に提示している。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2005 (0), C0390-C0390, 2006

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ