TKA直後に生じた一過性腓骨神経麻痺(1例)の症例報告

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  • 教育・研究に使用された御遺体での局所解剖学的検討を加えて

抄録

【はじめに】人工膝関節置換術(TKA)後に生じる腓骨神経麻痺に関する報告は数多い.しかし,TKA直後の一過性腓骨神経麻痺に関する報告は少ない.<BR> 今回,教育・研究の目的で行われた‘愛知医科大学解剖セミナー’における局所解剖学的検討を加えた結果,若干の所見を得たので報告する.<BR>【症例と経過】症例は,両側変形性膝関節症で両膝にTKAを施行した76歳女性である.術前評価において神経症状を示す所見は認められなかった.TKA施行直後より左腓骨神経麻痺が出現した.徒手筋力検査法(MMT)は前脛骨筋(TA)=1,長母趾伸筋(EHL)・長趾伸筋(EDL)=0,長腓骨筋(PL)・短腓骨筋(PB)=3であり,足背部に軽度の知覚低下が認められた.退院時の術後約1.5ヶ月評価において,MMTはTA=3,EHL・EDL=0,PL・PB=4であり,足背部の知覚低下は改善していた.さらに術後約2.5ヶ月評価では,神経麻痺の症状はほぼ正常に回復していた.すなわち,本症例の腓骨神経麻痺は一過性であり,主に深腓骨神経麻痺の症状を呈し,浅腓骨神経麻痺の症状は軽度であった.<BR>【解剖の結果】9体の16側を観察した.全例で,腓骨頭部において腓骨神経を深層の深腓骨神経と浅層の浅腓骨神経に分離することができた.また,腓骨頭尖部において腓骨神経は腓腹筋外側頭より外側を走行するため,腓骨と腓骨神経が密接していた.腓骨と腓骨神経の間に介在する結合組織の厚さには,個体差が認められた.<BR>【考察】TKA後の腓骨神経麻痺は,0.8~1.8%の頻度で生じると報告されている.その原因として,a)術中の外科的侵襲による損傷,b)外反アライメントの矯正による伸張,c)術後固定や肢位による圧迫,d)腓腹筋外側頭内に認められる種子骨による圧迫が挙げられる.本症例は,大腿脛骨角度(FTA)200°で完全な内反膝であり,術直後より症状が発現していた.また,レントゲン所見から種子骨は確認されていない.したがってb)c)d)は除外されるため,a)が原因であると推察された.しかし,a)に関する具体的報告は我々が渉猟する限り存在しない.<BR> 漆谷は,本邦人の腓骨神経は腓骨頭部において深層を深腓骨神経,浅層を浅腓骨神経が走行すると報告している.今回の解剖の結果においても同様の所見が得られた.TKAは,膝前方から骨切離を行うため,深層(前方)を走行する深腓骨神経は,浅層(後方)を走行する浅腓骨神経に比べて損傷されやすいと考えられる.<BR> 本症例の麻痺症状は一過性であった.したがって,骨切離時の機械的損傷ではなく,間接的な原因による神経変性が原因であると推察された.本田は,ウサギの坐骨神経を用いた55°Cと85°Cの温熱刺激後の神経再生実験において,85°Cでは神経再生は不良であったと報告している.電動ノコギリによる振動摩擦熱は100°C以上,セメント凝固熱は85°C前後になる.術中の温熱刺激による神経変性が,本症例の一過性腓骨神経麻痺の原因と考えた.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2005 (0), C0443-C0443, 2006

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680539700608
  • NII論文ID
    130004579372
  • DOI
    10.14900/cjpt.2005.0.c0443.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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