障害物跨ぎ動作における加齢の影響について

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【目的】転倒の要因として、障害物跨ぎ動作時の「つまずき」「すべり」がある。加齢に伴い、歩行時の歩幅は短縮することから、幅の異なる障害物の跨ぎ動作においては、加齢に伴う変化が現れることが予測される。そこで本研究では、幅の異なる障害物の跨ぎ動作における加齢の影響について検討する事とした。<BR><BR>【方法】成人12名(平均年齢25.4±3.9歳)と高齢者10名(平均年齢74.2±5.7歳)を被験者とし、歩行中に異なる幅の障害物を跨ぐ実験を行った。直線歩行路(13m)を設定し、一定の位置に障害物を設置した。障害物の大きさは、幅が6cm、14.7cm、25cmの3種類で、高さ1.5cm、奥行き60cmは同一とした。測定には三次元動作解析装置VICONを用い、マーカーを両側のつま先、踵、ASISと障害物に添付した。歩行は快適歩行と高速歩行の2条件とした。快適歩行、高速歩行の順に、各幅の障害物跨ぎをランダムに3試行ずつ、計18試行実施した。変数はつま先-障害物距離(後から障害物を跨ぐ下肢のつま先から障害物近位端距離)、踵-障害物距離(先に障害物を跨ぐ下肢の踵から障害物遠位端距離)、跨ぎ幅とした。統計分析には、各条件3試行の平均値を用い、速度(快適・高速)、障害物(6cm・14.7cm・25cm)、年齢(成人・高齢)の3要因分散分析を実施した。本実験は茨城県立医療大学倫理審査会の承認を得て実施された。<BR><BR>【結果】成人では障害物に接触した被験者はいなかったが、高齢者では10名中2名が踵を障害物へ接触させた。つま先-障害物距離での年齢の影響はなかった。踵-障害物距離には速度と年齢の交互作用がみられ(F(1.20)=8.29, p<.01)、高速歩行時において成人群と比較して高齢群で優位に踵-障害物距離が小さかった。成人群は快適歩行と比べて高速歩行で有意に踵-障害物距離が大きかったが、高齢群では有意な差はみられなかった。跨ぎ幅には速度と年齢の交互作用 (F(1.20)=8.82, p<.01)があり、高速歩行時に成人群と比較して高齢群で有意に跨ぎ幅が小さかった。また、成人群、高齢群ともに高速歩行では快適歩行よりも跨ぎ幅が有意に大きかった。<BR><BR>【考察】加齢に伴い歩行時の歩幅は短縮するが、快適歩行、高速歩行ともに跨ぎ動作時のつま先-障害物距離で加齢の影響はみられなかった。特に、高速歩行時では、成人群と比較して高齢群で跨ぎ幅が有意に小さいが、つま先-障害物距離が同じであるため、踵-障害物距離が有意に小さくなった。そのため、高齢者が成人と同じ位置から障害物を跨ぐ事は踵接地時の障害物への接触の可能性を高め、「すべり」の要因となると考えられた。また、速く歩いている時に障害物を跨ぐ場合には、転倒の要因となる「すべり」がより発生しやすい可能性が示唆された。<BR><BR>【まとめ】幅の異なる障害物の跨ぎ動作における加齢の影響について検討した。高齢者では高速歩行時の跨ぎ幅の低下、不適切なつま先-障害物距離を示し、転倒の要因となる可能性が示唆された。

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