胸郭可動域制限が頸部呼吸筋に及ぼす影響

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  • ―背臥位と座位による検討―

抄録

【はじめに】臨床においてShy-Dragre症候群の症例を担当する機会を得た。本症例は背臥位から座位になることで呼吸困難感を訴え、理学療法評価では胸郭可動域制限を認め吸気時に頸部呼吸筋の過活動を認めた。上記の経験から胸郭可動域制限を有する場合吸気時の頸部呼吸筋活動と呼吸困難感には関連があると考えた。また肢位の変化が頸部呼吸筋活動に影響を及ぼすのではないかと考えた。そこで今回健常者を対象に胸郭を固定した状態での背臥位と座位の違いが呼吸、特に吸気時の頸部呼吸筋に与える影響について検討したので報告する。<BR>【対象と方法】対象は整形外科・神経学的に問題のない健常男性7名(両側)、平均年齢は28.8歳であった。測定肢位は背臥位と座位とした。それぞれの肢位にて筋電計ニューロパック(日本光電社)を用いて安静呼吸時の斜角筋群・胸鎖乳突筋・板状筋・僧帽筋上部線維の筋電図を10秒間、3回測定した。次いで流量型呼吸筋訓練器(トリフローII)を用いて10秒間に2回の呼吸を実施し、この際の吸気時には、600cc/sec及び900cc/secを1秒間保持するよう指示し、呼気は自然呼気とした。この2種類の呼吸について同様に筋電図を測定した。次に上部胸郭固定・下部胸郭固定の2つの条件下にて上記と同様に筋電図を測定した。胸郭の固定はバストバンドを用いて、上部胸郭は腋窩レベル、下部胸郭は第10肋骨レベルで行った。筋電図の分析は各筋電図波形及び筋積分値変化により検討した。なお対象者には本研究の目的・方法を説明し了解を得た。<BR>【結果と考察】背臥位において斜角筋群の筋活動は胸郭固定の有無に関わらず吸気量の増加により増加傾向を示した。また斜角筋群以外の3筋について胸郭固定の有無に関わらず著明な活動を認めず、吸気量の増加によっても筋活動に変化はなかった。座位では背臥位と比べ斜角筋群の筋活動は増加する傾向を示し、胸郭を固定することで著明となった。特に上部胸郭固定で斜角筋群の筋活動は固定なし時より増加し、さらに吸気量が増加すると斜角筋群以外の3筋についても活動を認めた。また下部胸郭固定では上部胸郭固定時より頸部呼吸筋の活動は減少した。今回、背臥位での吸気時における斜角筋群の筋活動が座位と比べ減少した理由として、背臥位では吸気時における上位肋骨挙上が重力の影響を受けにくいからであると考える。宮川らによると、吸気時に横隔膜が収縮して胸腔内圧が陰圧となることで肋骨には内方への力がかかる。これに対して外肋間筋・斜角筋群・内肋間筋前部線維は肋骨の固定・挙上に関与すると報告している。また吸気肋間筋は上部胸壁に多く存在すると報告している。このことから座位での上部胸郭固定時は肋間筋による胸郭拡張作用が低下し、斜角筋群が代償的に肋骨の挙上・固定に関与したと考えた。さらに下部胸郭固定では胸郭拡張作用は上部胸郭固定時より低下せず、斜角筋群の代償的な活動が減少したと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), A0029-A0029, 2005

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680540370944
  • NII論文ID
    130005012028
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.a0029.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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