3次元動作分析による着座動作の運動学的特徴

  • 妹尾 浩一
    老年病研究所附属病院 リハビリテーション科 群馬大学大学院医学系研究科
  • 内山 靖
    群馬大学大学院医学系研究科

説明

【目的】着座動作は立ち上がり動作と並び重要な基本動作の1つであり,高齢者や有病者では立ち上がりと比較して難しい動作である.着座動作の特徴は,支持基底面を足部から殿部と足部に移す動作で,殿部が接床するまでに身体に作用する力が重力と床反力のみであることを考えると,着座動作の制御には足関節が重要な役割を果たしていることが予想される.本研究では足圧中心(COP)と体重心(COG)に着目し,着座動作の制御機構について明らかにすることを目的とした.<BR>【方法】対象は健常男性10名(平均年齢19.8±0.8歳)とした.被検者は床反力計の上に裸足で乗り,足部は踵骨間距離30cm開脚位で足底全面接地,両上肢を胸部で組み前方を注視させた.検者の合図により立ち上がり・着座動作を交互に各10回繰り返し行い,被検者には「着座時にゆっくりと坐るように,坐りなおさないように」と伝えた.また立ち上がり・着座の動作速度は任意とした.測定には3次元動作分析装置(Oxford社製VICON612)を用い,反射マーカーを臨床歩行分析研究会の推奨する方法に従って取り付け,サンプリング周波数60Hzで測定した.測定結果から,COPとCOGの距離を重力による回転モーメント成分と定義し,着座動作開始時のCOPの前方移動距離,立ち上がり動作開始時のCOPの後方移動距離をそれぞれ動作の駆動成分と定義し比較・検討した.動作開始時の駆動成分の比較では対応のないt検定,重力による回転モーメント成分の最大値と体幹の最大前傾角度の関係にはPearsonの相関係数を用い,有意水準はそれぞれ5%とした.<BR>【結果】着座動作と立ち上がり動作の比較では,着座動作は立ち上がり動作と比較して駆動成分の絶対値が有意に小さく(着座:1.0±0.7,立ち上がり:6.9±1.6[cm]),変動係数は有意に大きかった(着座:44.2±21.1,立ち上がり:12.9±6.0[cm]).また着座動作において駆動成分が小さい群では,動作中の膝関節点の前方移動距離が大きく,膝関節回りのエネルギーが相対的に大きくなった.着座動作において,重力による回転モーメント成分の最大値と体幹最大前傾角度との間に有意な相関がみられた(r=0.894).<BR>【考察】着座動作における駆動成分は,動作開始時に足関節底屈モーメントを発揮させ足部を安定させるために必要であるが,着座では立ち上がりと異なり駆動成分に動作の力源を求めないために絶対値が有意に小さくなり,大きさの設定も厳密になされていないものと考えられた.また着座動作において駆動成分の小さい群では,動作開始時に底屈モーメントが得られにくく足部が不安定となりやすいため,動作中に膝関節を積極的に屈曲して下腿を前傾させ足部を安定させようとするものと考えられた.着座動作は立ち上がり動作と比較して,動作開始時には厳密な制御を行わず,動作が進行する過程でCOPを後方に移動させながら,体幹を前傾させ重力による回転モーメントを調節して動作を行っていることが示された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), A1039-A1039, 2005

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680540958336
  • NII論文ID
    130005012229
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.a1039.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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