階段昇降運動における昇降速度と心拍数回復過程に関する検討
説明
【目的】内部障害等の運動療法において,日常生活の活動範囲および活動量の拡大など運動量のコントロールを目的に運動処方を行う際,その評価指標として心拍数(heart rate:HR)が使用されている.しかし,従来,何らかの運動・動作の影響で変化した,ある時点でのHR値に注目している報告はあるが,回復過程の変化に注目しているものは少ない.本研究は,運動処方・身体活動量の指標にHRを簡便に使用するための基礎的資料を得るため,日常生活活動範囲での階段昇降運動速度とHR回復時間の関係を検討することを目的とした.<BR>【方法】対象は研究参加に同意をした健常男性10名で,平均年齢20.8 (19~23) 歳・身長174.6 cm・体重64.3 kgであった.被験者に心拍計(S810i,Polar社製)を装着し,高さ18cm・奥行27cmの階段21段を使用し,日常生活活動で使用する速度[steps/sec]で,階段昇段 (ascent:A) ・降段 (descent:D) 運動を行わせた.HR[beats/min]はR-R間隔から算出した.また,HRが最大値を示した後,安静時水準に回復するまでの時間(recovery time[sec]:RT),安静時HRからの変化率[%](ΔHR)を算出した.統計処理はRTと昇降速度の間で回帰分析を行った(SPSS Ver.12).<BR>【結果】各測定値の平均値と標準偏差は,昇降速度がA:117.3±29.0,D:133.0±39.2 steps/sec,RTがA:184.6±109.0,D:96.3±77.9 sec,ΔHRがA:28.1±5.6,D:18.0±4.7 %で,いずれも有意差(p<0.05)がみられた.RT(Y)と速度(X)の間にはA:Y = 1.76X-21.9(r=0.47),D:Y = 0.99X-35.8(r=0.50),いずれも有意(p<0.05)な回帰式が得られた.<BR>【考察】HR変化は運動強度に依存し,活動筋の酸素需要量増加により上昇し,筋活動低下・酸素借返却により安静水準に回復する.とくに高強度の運動でこの変化は顕著であるが,回帰式よりA・Dいずれの運動でも速度増加によりRT延長がみられたことから,日常生活活動レベルの階段昇降運動においても,速度の増加が運動強度に反映されていたと考えられる.一方,Aの平均速度はDより遅かったが,RTや回帰式の傾き,ΔHRはDよりもAが大きく,Aは抗重力方向の移動で多くのエネルギ-を要し,より高い運動強度であることが示されていたと考えられる.<BR>【まとめ】階段昇降運動速度と昇降運動後のHR回復時間とは有意な関係があり,日常生活活動での身体活動量の評価・調節における有用な情報となりうることが示唆された.なお,本研究は文部科学省科学研究費補助金(15700442)の助成を受け,東京都立保健科学大学研究倫理審査委員会の承認により実施した.
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2004 (0), A1046-A1046, 2005
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680540969728
-
- NII論文ID
- 130005012236
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可