社会人経験の有無が理学療法ジレンマストーリーの判断過程に及ぼす影響

DOI
  • 井上 佳和
    土佐リハビリテーションカレッジ 理学療法学科
  • 宅間 豊
    土佐リハビリテーションカレッジ 理学療法学科
  • 宮本 祥子
    土佐リハビリテーションカレッジ 理学療法学科
  • 竹林 秀晃
    土佐リハビリテーションカレッジ 理学療法学科
  • 岡部 孝生
    土佐リハビリテーションカレッジ 理学療法学科
  • 宮本 謙三
    土佐リハビリテーションカレッジ 理学療法学科

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抄録

【目的】<BR> 良好な職業的態度を育成する上で高い道徳観に基づく判断能力の向上は欠かすことができない。コールバーグは,問題の対処にあたり「何と答えたか」ではなく「どう考えたか」に着目し,道徳性発達を段階化している。我々は理学療法場面におけるジレンマストーリーを作成し,その判断にあたって考慮するであろう要因の重要度を答えさせることで「どう考えたか」の把握を試みている(第39回本学会)。一般に道徳性発達は葛藤経験により促進するとされているため,今回は組織所属経験を持つ社会人学生の道徳判断の特性について検討を行ったので報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 臨床実習経験を持たない本校理学療法学科2年生35名に対し,「中庭の散歩」と題したジレンマストーリーを読ませ「散歩に行くべき」「行くべきではない」からとるべき態度を判断させた。その上でその判断にあたり考慮すると思われる7要因について重要度を答えさせ,更に判断理由について自由記載させた。「中庭の散歩」はPTSが担当となった頚損患者の訓練意欲を高めるために中庭の散歩を始めたが看護部門と同室患者からクレームがつき,散歩を続けるか迷う内容で,患者との約束を守るという信頼関係と,他の患者との公平性の間に葛藤場面を設定したものである。7要因は道徳性発達段階を参考に,罰と権威への服従,報酬や感謝,対人的同調,信頼関係,秩序維持,公平性,個の最良を設定し,それぞれについて「非常に重要;5点」から「全く重要でない;1点」の5件法より1つを選択させた。検討にあたっては,対象を社会人経験有り群となし群に分けた上で,7要因別の群間比較をおこなった。また結果の解釈にあたっては自由記載内容も参考とした。<BR>【結果】<BR> 2群の内訳は経験群10名(平均28.3±3.5歳),なし群25名(平均20.0±1.7歳)であった。7要因重要度の平均値は両群共に同様の順位となり,最も高かったのは個々の最良で,特に経験群では全員が非常に重要と答えた。以下は,信頼関係-公平性-秩序維持-対人的同調-罰と権威への服従と続き,最も低かったのは報酬や感謝であった。平均値の差の検定では,信頼関係(経験群平均4.9±0.1,なし群4.6±0.3 p<0.05)と個々の最良(経験群平均5.0±0,なし群4.6±0.3 p<0.01)の2要因について経験群が有意に高い結果となった。<BR>【考察】<BR> それまでの人生設計を変更しPTを目指す社会人経験を持つ学生は,信頼関係や個々の最良を医療従事者として持つべき要因としてより重要視していることが明らかとなった。また自由記載内容においても両群共,信頼関係を重要だと捉えているものの,なし群の記載に多く見られたPTSと患者の二者間のみの信頼関係の維持に重点を置くのではなく,経験群では秩序維持や他患者との公平性など他要因を含め,単純には割り切れない思いを持っていることも推察された。これらは組織所属の中での葛藤経験が反映したものだと考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), G0559-G0559, 2005

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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