BIT行動性無視検査施行における視線行動および言語特性
説明
【目的】半側空間無視の診断のための標準化された検査としてはBIT行動性無視検査(Behavioural inattention test)が存在するが、中でも、理学療法の臨床では線分抹消試験、線分二等分試験、模写試験がよく用いられる。本研究では、これら検査開始時の視線及び施行中の追跡眼球運動を類別すると共に、実施後の被験者の内省報告による言語記述の特性と視線行動の関連について検討する。<BR>【方法】対象は健常者19名(平均年齢19才)である。被験者は線分抹消試験、線分二等分試験、花の模写試験を一試行ずつ行った。なお、各検査間は閉眼にて待機し、合図とともに開眼した後に試行した。ナック社製アイマークレコーダー(EMR-8)を用いて各検査中の左右両眼の注視点を計測した。注視点データはEMR-8の前方視野カメラ画面上における座標値として、30HzのサンプルレートでEMR-8背面のシリアルポートからPCに取得した。被験者は坐位にて前腕を机上に置き、眼前のEMR-8上方から机上が見通せる姿勢を維持した。アイマーク時系列と停留点を抽出し、視線の時系列軌跡と注視について調べた。また、検査終了後に内省報告を聴取し記述した。<BR>【結果と考察】抹消試験:眼球運動の振幅が小さく線への注視とサッケードが交互にみられるパターンは全例で確認されたが、眼球運動が頭部の動きに遅れて現れるパターン、手が先行し眼球と頭部の運動が遅れて現れるパターンも散見された。「消し忘れないように」と内省報告がされた場合は振幅が大きく、端から順に進める傾向にあったが、「近くから」「速く」と報告した場合は、最初に注視した付近から抹消を始め、その軌道は無秩序であった。特に左上から抹消を開始する例が半数を超えた(10名)。模写試験:見本の絵に対応した描画に先立つ頻回なサッケードは全例で認められた。茎は傾きに沿った眼球運動が出現した後に描き始めるのに対し、花弁は形に沿った眼球運動は少なく見本を見ずに描く場合も多かった。「葉と茎の関係」「左右の花のバランス」「花弁の数」等の空間と言語情報への注意がみられた。花弁と葉は対象の表象を空間情報から数等の言語情報に加工し記憶化して描くのに対し、茎は空間を言語に加工できないため、描画に先立つ眼球運動はその空間配置に意識化される傾向にあった。二等分試験:全例で二等分前に線中央付近の注視が認められた。その後は左右へのサッケードが見られた後に印す型(9名)と中央付近と半側空間のサッケードが見られた後に印す型(10名)に類別された。前者は「端からの感覚を意識した」等左右の端を意識する傾向にあったが、後者は「真ん中に引こうと思った」といった内省報告が多かった。各検査の視線行動及び言語記述の特性が異なることからも、結果のみならず遂行過程や言語記述の分析が必要と考えられた。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2004 (0), A1072-A1072, 2005
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680540995072
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- NII論文ID
- 130005012262
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可