慢性心不全の温泉療法における心機能と血管反応

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抄録

【目的】慢性心不全患者において以前より運動耐容能の低下が指摘されており、それは単純に心機能の低下というだけではなく、全身の末梢血管反応つまり拡張性の低下や運動骨格筋の変化等を含めた全身疾患として近年考えられるようになってきた.慢性心不全に対する運動療法は以前から行われているが、最近では適切にコントロールされた温泉療法は循環器疾患にも有用であることが注目されるようになって来た.鄭らは慢性心不全の患者32例を対象とした研究から,温水浴およびサウナ浴後の血行動態が有意に改善することを報告している.温泉療法は、末梢血管を拡張させることにより、全身血管抵抗を減少させ、心負荷を軽減することが期待される。今回我々は慢性心不全患者に対する温泉療法が心機能および血管反応にどのように影響するのかを検討した.<BR>【方法】方法として慢性心不全でかつ運動が困難な症例を対象に、単純泉(40度)に1回10分間の入浴、週5日、計2週間継続した.初回および最終回と適宜の採血・診察は医師が行い温泉療法は理学療法士が物理療法として担当した.心不全の程度、心機能、末梢血管の状態を治療開始前後で比較検討した.<BR>【症例】症例数:男性2名 女性2名の計4名.年齢:平均81.歳(SD=7.8).身長:平均150.cm(SD=7.9).体重:平均45.Kg(SD=7.0).NYHA(ニューヨーク心臓協会の心不全重症度分類)2から4.<BR>【結果】経時的変化1:HR,平均血圧,CTR(心胸比),EF(左室駆出率)は、従来から変化がないとされているが、我々の研究結果でも特に変化はみられなかった(N.S.).経時的変化2:PWV(脈波伝播速度:動脈の脈波伝播速度の測定による動脈硬化度の定量化)平均18.0→16.9(m/sec),SD=4.1,(P<0.05),結果として有意に改善がみられた.BNP(心室から出る利尿ポリペプチドで末梢血管の拡張性および心機能を表す.心不全・急性心筋梗塞で上昇する)平均720.3→377.7(pg/dl),SD=594.9,(P<0.1),結果としてやや改善傾向にあった.ADMA(一酸化窒素合成酵素の内因性阻害物質:動脈硬化や血管内皮障害のマーカーになりうることが示唆されている.内皮障害との相関は,LDLコレステロール(LDL-C)よりも強いと考えられている)平均0.6→0.5(nMOL/ml),SD=0.1,(P<0.05),結果として有意に改善した.以上のことにより、これらの指標は全て温泉療法により改善傾向を示した.<BR>【考察】温泉療法は、末梢血管の反応性を改善し血管抵抗を低下させることにより、心負荷を軽減し最終的に自覚症状の改善を呈する可能性が示唆された.このことは慢性心不全のリハビリテーションとしての適応が期待され、なおかつ運動療法が困難な症例にも応用可能な理学療法となり得る可能性が示唆された.今後の方針としてさらに症例数を増やし,温泉療法の慢性心不全に対する機序を解明することで循環器理学療法の展望を開く一助になればと考えている.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2003 (0), A0808-A0808, 2004

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680541013760
  • NII論文ID
    130004577758
  • DOI
    10.14900/cjpt.2003.0.a0808.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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