便座の高さと身体寸法の関連
説明
【はじめに】排泄は人が生きていくために欠かすことは出来ない。障害を持った方においても当然そのための動作は個々の運動能力に合わせて再獲得されていくが、個々に合わせたトイレ設備の改修も必要である。最近、バリアフリーの概念からいくつかの法律が施行され、トイレについても一定の範囲基準が示されている。果たしてその基準が障害の個別性を考える時、万人に対して実用的であるかどうか疑問に持つ者も少なくないであろう。万人に適応する整備がなされれば、障害者及び高齢者の社会参加の機会が増えるのではないかと考え、今回便座の高さに着目し調査検討を行ったので、考察を加え報告する。【方法】第24回九州理学療法士・作業療法士合同学会参加者から無作為にアンケートを依頼し、協力を得られた64名(理学療法士30・作業療法士18・学生15・その他1、平均年齢26.5±5.7歳、平均身長163.6±8.7cm)。を対象とした。内訳は、男性33名(28.8±6.0歳、170.1±6.3cm)、女性31名(24.1±4.1歳、156.6±4.7cm)であった。調査項目は、予め一般障害用の高さである43cmに設定した便座(以下、固定便座)に対する主観(高い、低い、ちょうどよいの3段階)、及びその固定便座に座ってみた主観、固定便座から立ち上がる際の主観とした。更に39cmから48cmまで1cm刻みで高さ調整できる便座(以下、昇降式便座)を作成し対象者の主観にて使い易い座面の高さを測定した。【結果および考察】固定便座に対する主観は、見た目、坐位時、立ち上がり時の順に「高い」が7名、6名、4名、「低い」が23名、23名、29名、「ちょうどよい」が34名、35名、29名であった。固定便座は、一般家庭用便座(標準的高さ40cm)よりも高い障害者用に設定した。しかし、見た目も、坐った時もちょうどよいか低いと感じ、立ち坐りを考慮するとさらに低いと感じる者が若干多くなった。昇降式便座にて使いやすい便座の高さの平均が、男44.3±1.4cm、女43.4±1.5cm、男女合計では43.9±1.5cmであった。身長別に比較してみると、164cm未満(156.9±4.2cm、33名)では、ちょうど良い便座の高さが43.4±1.3cm(座面高:身長×0.25=39.2cm)であった。これに対し、164cm以上(171.9±4.5cm、29名)では、44.4±1.5cm(座面高43.0cm)であった。一般的に椅子の高さは座面高より1cm低い値がちょうどよいとされている。今回の結果では実際に使いやすい便座の高さは、座面高より高い値となった。これらのことは、一般家庭用や教科書的な高さに対する適応の思い込みと実物を前にした見た目と使用時の主観との違いを表しているのではないかと考えられた。また我々理学療法士や作業療法士が考慮する座面の高さの基準は、座位安定性よりも立ち座りの動作を中心としているのだろうと考えられた。今回の調査は便座の立ち坐り動作を中心に見ており、実際の排泄(排尿、排便)そのものの生理学的な要素を踏まえた動作を考慮していない。今後この排泄のための坐位姿勢も考慮に入れて検討を重ねていきたい。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2002 (0), 775-775, 2003
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680541028480
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- NII論文ID
- 130004577470
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可