橈骨遠位端骨折後に発生した長母指伸筋腱断裂の3症例

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抄録

【はじめに】橈骨遠位端骨折は頻繁に見られる骨折の一つであるが、遅発性に長母指伸筋腱(以下EPL)の断裂が発生する場合がある。その発生率は1%未満と比較的稀であり、中年以降の女性に多いと報告されている。今回、橈骨遠位端骨折後にEPL断裂が生じた3症例の理学療法を経験する機会を得たので、その発生率及び理学療法における問題点について報告する。【対象および経過】平成11年1月から平成14年7月の間に当院にて橈骨遠位端骨折の診断、治療、理学療法を行ったのは121名であった。そのうち3症例にEPL断裂が認められ、発生率は2.4%であった。(症例1)50歳男性、転落による右橈骨遠位端骨折。5週のギプス固定後、理学療法施行。受傷後8週を経過して母指伸展不全に気付きEPL断裂と診断。(症例2)74歳女性、転倒による右橈骨遠位端骨折。他院にて4週のギプス固定後、理学療法施行。受傷後14週を経過して母指伸展不全に気付き、当院にてEPL断裂と診断。(症例3)54歳女性、転倒による左橈骨遠位端骨折。他院にてギブス巻行後、2週を経過して母指が急に動かなくなり、当院にてEPL断裂と診断。以上、3症例に対し固有示指伸筋腱(EIP)を用いた腱移行術を施行し、4週間のギプス固定を行った。理学療法は術後5週目より渦流浴内での自動運動を開始し、6週目より他動運動及び筋力増強運動を追加した。結果、症例1、2は母指IP関節の伸展は完全であったが、軽度のMP関節伸展不全が残存した。症例3はいずれの関節も伸展は良好であった。又、3症例について年齢、性別、発生時期、骨折型等について分析したが、EPL断裂が生じやすい特定の要因や傾向については断定できなかった。【考察】EPL断裂の発生率は、今回の結果では2.4%と過去の報告と比較するとやや高い傾向を示した。これは、母指の巧緻動作がEPLの作用が無くても、短母指伸筋や母指内在筋の作用によってある程度可能であることから、断裂例が見逃されている可能性も考えられた。又、橈骨遠位端骨折後のEPL断裂の発生機序については不明な点が多いが、血行障害による腱の変性、脆弱、骨片や仮骨による機械的摩擦、自家筋力による磨耗等が原因であるといわれている。今回の3症例においては、骨折型や転位の有無に関わらず、EPL断裂が発生しており、断裂時期も幅広いことから、その予測は現時点では困難であると考える。よって、橈骨遠位端骨折後の理学療法を行う際は、遅発性にEPL断裂を生じる可能性があることを、常に念頭に置く必要がある。そして、母指のMP、IP関節の伸展力の変化やEPL断裂の生じやすいリスター結節部の痛み、腫脹等に留意して関節可動域運動及び筋力増強運動を進めていく必要がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680541133696
  • NII論文ID
    130004576803
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.174.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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