首下がりを呈した頚部ジストニアに対する運動療法の経験
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- 笠原 剛敏
- 東京臨海病院 療法室
説明
【はじめに】頚部ジストニアは、頭頚部筋群の異常筋収縮により頭位偏倚をきたす局所性ジストニアの一種である。近年本疾患に対し、特定の感覚刺激により頭部偏倚の緩和を認める『感覚トリック』の影響から、感覚情報処理異常の関与が重要視されている。今回、首下がりを呈した頚部ジストニア一症例を経験した。安静時・動作時ともに首下がりの特異的屈曲姿勢を呈し、日常生活動作の低下、頚部周囲の身体像の歪みを認めた。運動療法は頚部の伸展保持・伸展活動を触圧覚・固有感覚刺激から感覚運動統合させ、自律的姿勢反応と関連づけ治療した結果、機能的な姿勢・動作の改善が得られた。本症例を通し、運動療法の実際と機能的変化の背景について考察したので報告する。<BR>【症例紹介】67歳 女性 頚部ジストニア パーキンソンニズム<BR>【現病歴】平成13年背中のだるさ、首が下がる症状が出現。平成14年9月首下がりが増悪、寝返り・起き上がりが困難。平成15年4月14日当院神経内科入院、同年4月15日理学療法開始となる。<BR>【臨床像】開眼安静端座位の頚部姿勢は、特異的な頚部前屈位を呈し(Tusiスコア9点)、随意的な頚部の伸展保持・伸展活動が困難であった。移動は歩行で行えるが頚部前屈の増悪を生じ不安定、起居動作・食事・整容動作が要介助であった(Barthel indexスコア50点)。特に食事動作は特異的頚部・体幹屈曲により、口腔内への取り込み、咀嚼運動の困難から30分以上の摂取時間を要した。筋緊張分布は後頸部筋、胸鎖乳突筋を中心に、同時収縮性の筋緊張亢進を認めた。そして頚部・上部体幹に深部感覚障害を認め、また頬づえをつく、マフラーを頚部に巻くといった感覚トリックが陽性であった。<BR>【治療内容】臥位・座位場面で頚部周囲の持続的筋収縮に対し、触圧覚刺激から筋緊張の調節を図る。そして頭部の重量感や下顎と胸骨、下顎と左右肩峰の距離感を固有感覚刺激から識別させ、寝返り、座位バランス場面で自律的姿勢反応と結び付け運動調節した。<BR>【結果】40分間16回の運動療法実施後、歩行・端坐位での頚部伸展保持が得られた(Tsuiスコア1点)。寝返り・起き上がりの自立、食事・整容動作の自立が得られた(Barthel indexスコア90点)。<BR>【考察】本症例は頚部・上部体幹の深部感覚障害、感覚トリックの陽性から感覚情報処理の異常が考えられた。運動療法は感覚運動統合として触圧覚刺激から頚部周囲筋の筋緊張の調節を、固有感覚刺激から頚部の伸展保持・伸展活動の調節を求め、自律的姿勢反応を通し頚部・上部体幹の抗重力伸展活動を促す事で、機能的な姿勢・運動の改善が得られた。首下がりを呈した頚部ジストニアに機能的な頚部の伸展保持・伸展活動を求める上で、頚部・上部体幹の身体像を触圧覚・固有感覚から識別させ、自律的姿勢反応の中、感覚情報処理の再組織化をはかる事が有効と考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2003 (0), B0344-B0344, 2004
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680541183232
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- NII論文ID
- 130004577866
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可