座位姿勢の調整によって嚥下機能障害に改善がみられた一症例
説明
【はじめに】当センターでは、医師(耳鼻咽喉科、リハビリテーション科)、歯科医師、言語聴覚士(以下ST)、理学療法士(以下PT)、看護師、歯科衛生士、栄養士が参加する摂食・嚥下クリニックを開始した。今回、重度の嚥下機能障害を有する症例に対し、クリニックを通してチームアプローチを実施し、経口摂食が可能となった。この症例におけるPTの関わり、チームアプローチの重要性について経験できたので報告する。<BR>【症例紹介】45歳、男性。1997年3月、7月、2000年5月に脳出血発症。重度両側片麻痺、高次脳機能障害、嚥下機能障害となり胃瘻造設後2002年4月よりADL全介助で在宅生活開始。2004年7月嚥下機能評価目的で当センター外来開始。2004年10月嚥下機能訓練目的にて当センター入院。<BR>【訓練経過】2004年7月のビデオ嚥下造影検査(以下VF)では、口腔内保持・舌運動不良、嚥下反射の惹起遅延あり、喉頭蓋谷・梨状窩に僅かな残留あり。PT評価では頬筋・舌筋の筋緊張低下。車いす上の不良座位姿勢による後頭下筋群・左胸鎖乳突筋・肩甲帯周囲筋の筋緊張亢進がみられた。以上の評価から、PTは車いす上の不良姿勢が嚥下機能を低下させている一因と考え、車いす上の座位姿勢調整、頸部・肩甲帯周囲筋の筋緊張コントロール、STと共に間接的アプローチ(頬筋・舌筋の促通、口腔マッサージ)を実施した。2004年9月、再度VF実施。口腔内保持・舌運動・嚥下反射に改善あり。残留は喉頭蓋谷のみに減少した。PT評価では頬筋・舌筋の筋緊張が改善し、反射的な咀嚼運動がみられた。車いす上の座位姿勢は改善し、後頭下筋群・左胸鎖乳突筋の筋緊張も改善した。以上の評価結果から限定した食形態での経口摂食可能と判断した。2004年10月、PT・STによる直接的アプローチ(摂食訓練)及びチームで全身状態のチェックを行い、摂食介助、誤嚥時の対応、口腔ケア、嚥下食の準備などを家族へ指導した。<BR>【結果】これらのアプローチによって車いす上の座位姿勢が改善し、筋緊張に改善がみられた。その結果、ゼリー状食物を数口、家族の介助下で経口摂食が可能となった。現在、自宅で楽しみとしての経口摂食を継続できたことで本人の精神反応性の向上を認めている。<BR>【考察とまとめ】筋緊張及び嚥下機能の改善は、PTの姿勢調整を中心とした関わりが有効であったと考える。また本症例が経口摂食するには家族の適切な介助が必要であり、各職種が課題を整理し、チームでアプローチしたことで継続的に経口摂食が可能になったと考える。この症例を通して、重度の嚥下機能障害を有する症例への姿勢調整を中心としたPTの関わりと家族の介助が必要な人への家族を含めたチームによる集中的なアプローチの重要性を経験できた。今後更に症例を重ね、嚥下関与筋の働きと姿勢との関係、チームにおけるPTの役割等について検討したい。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2004 (0), B0258-B0258, 2005
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680541354240
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- NII論文ID
- 130005012389
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可