生態学的概念に基づくアプローチを行った一症例

DOI
  • 安井 常正
    新宮市立医療センターリハビリテーション科
  • 上西 啓裕
    和歌山県立医科大学付属病院リハビリテーション科
  • 池田 吉邦
    武用整形外科理学診療科
  • 有馬 聡
    和歌山労災病院リハビリテーション診療科
  • 中尾 和夫
    琴の浦リハビリテーションセンターリハビリテーション部

抄録

【はじめに】行為と環境の間に科学的相関関係にある第3項目を設定せずに,行為と環境の関係性をそのまま見ていく試みを,我々は「生態学的概念に基づくアプローチ」と定義している.今回,本人も希望する理想的な坐位へ姿勢を変化させた途端に,眩暈,キラキラする感じ(以下眩暈等とする)を呈する患者に対し,環境との関わり方に変化を与える事により,症状の改善が得られたので報告する.【症例】36歳,女性.脳性小児麻痺に頚髄不全損傷を合併.ADLは排泄動作で一部介助を要するが,その他は自分で行え,車の運転も改造車で自立している.平成14年4月より,背もたれを使った安定した坐位保持の獲得を目的に,当センターで理学療法開始となる.【臨床像からみた問題点】_丸1_坐位保持は,腰椎を過度に前彎させ,胸郭を支持基底面の中央にのせ,常に上肢の支えが必要._丸2_背もたれにもたれると,眩暈等が出現する.本症例の坐位姿勢は,手掌或いは前方に広がる視覚情報に過度に依存しており,諸動作の拠としていた.また,背面の知覚世界にも広がりがなく,背もたれが馴染みのないものであった.以上のことから,拠である手掌を支持面から離した途端に,連続した知覚情報が絶たれ,適切な知覚-行為循環が行われず,このような症状が出現し,行為の妨げになっていると仮説を立てた.【PT内容】背中等(上肢以外)でも環境が知覚できるように配慮しながら,背臥位等から坐位姿勢へと誘導していった.坐位では,拠にしてきた身体前面と上肢を使用し,背面で触れて探索しながら,背面での知覚バリエーションを広げ,背もたれにもたれるまで誘導を行った.【結果】_丸1_腹部のサポートは必要だが,背もたれにもたれられるようになった._丸2_上肢を支持面から離しても,眩暈等が起こらなくなった.【考察】一般に姿勢の安定性は前庭システムに依存する.一方で姿勢の安定性に対する前庭システムの関与を評価することは困難である.今迄も慣れや適応練習といったアプローチが行われてきたが,何れも眩暈や不安定姿勢を余儀なくされるアプローチであり,恐怖感を克服し,最後まで続けると言う強い意志が要求された.しかし,行為と環境との関係性を考慮しながら組み立てていくアプローチは,身体の拠を駆使しながら能動的に広がりを得る為,段階的であり恐怖感は殆どない.これらにより,安定して安全に根気よく,目標達成できたと考えられる.また,本来「起立性低血圧」と捉えて対応している症例でも,この概念で対応できるものも含まれているのではないかと思われる.【まとめ】_丸1_知覚-行為循環が適切に行われていない為に,眩暈等が出現した._丸2_適切な知覚-行為循環が行われるように誘導を行った._丸3_環境適応により,眩暈等は改善し,サポートは必要だが背もたれにもたれられるようになった.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680541512320
  • NII論文ID
    130004576950
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.306.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ