母指伸展が歩行に及ぼす影響

この論文をさがす

説明

【はじめに】<BR> 立脚後期での足関節背屈に引き続いて起こる中足指節間関節背屈は,フォアフットロッカー(前足部の回転運動)の機能を作り出し,身体重量は前方へ押し出されていく.この機能が障害されると歩幅の減少や,歩行速度の低下が起こるといわれている.また,足部機能不全に関しての報告は多くなされているが,母指の機能不全に関する報告は少ない.今回,歩行中の母指機能が最も重要となる立脚後期に着目し,母指伸展制限による下肢関節角度への影響,身体重心の変化,床反力への影響,対側立脚初期への影響を計測し,母指機能評価が,歩行分析,治療アプローチに役立つ指標の一つとして検討したので報告する.<BR>【対象・方法】<BR> 健常成人4名(男性2名 女性2名 平均年齢30.75±2.25歳)の体表面上にマーカー(両肩峰・ASIS・大転子・膝関節・足関節外果・第5中足骨頭)を貼付し,(1)自由歩行と,(2)足底テーピング(ニチバンバトルウィン 非伸縮テーピングテープ 25mm) によって母指30°伸展制限固定した歩行(以下,母指固定歩行)を10回ずつ施行し,測定を行った.測定は三次元動作解析装置(VICON MOTION SYSTEMS 社製VICON612)にて行った.得られたデータから,立脚後期の体幹,股関節,膝関節,足関節角度,床反力鉛直成分,左右成分,対側立脚初期の鉛直,左右成分,身体重心位置を算出し,対応のあるt検定にて有意差を求めた.<BR>【結果】<BR> 自由歩行と母指固定歩行において,足関節,膝関節,股関節屈伸,体幹側屈・回旋角度での有意差は認められなかった.股関節内外転,体幹前後傾角度では有意差が認められた.また,床反力は測定側・対側の鉛直方向で有意差が認められた.(P<0.01)この事から,母指伸展制限により,矢状面上では体幹前傾方向,前額面上では股関節内転方向に影響を及ぼす事が認められた.また,左右方向では身体重心の対側への偏移,立脚後期の床反力の減少,反対側立脚初期の床反力の増加傾向が認められた.<BR>【考察】<BR> 母指MP部の正常可動範囲は屈曲0°~35°伸展0°~60°といわれ,立脚後期での中足指節間関節は30°から60°伸展していき,これによって足底筋膜が緊張し,足部剛性を高める.このとき,長母指屈筋と長指屈筋が下腿三頭筋とともに活動し,フォアフットロッカーにより,動的安定性を保持している.今回の結果から,母指伸展制限によって,足底筋膜の緊張が不十分となり,足部剛性が作り出せず,下腿三頭筋への筋活動の波及が困難となる事が分かった.この矢状面上の運動制限を補償するために股関節内転が行われていたと考えられる.また, 身体重心の落下にブレーキ作用として働く,下腿三頭筋の機能低下により,対側立脚初期の衝撃が強まり,身体重心の落下として,体幹屈曲増大が現れていた.以上のことから,母指の機能評価が立脚後期,反対側立脚初期の歩行分析の指標の一つとして有用である事が示唆された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2005 (0), C0176-C0176, 2006

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ