視覚誘導性到達運動課題を用いた音楽運動療法用楽器の開発

DOI
  • 辻下 守弘
    広島県立保健福祉大学保健福祉学部理学療法学科
  • 鶴見 隆正
    広島県立保健福祉大学保健福祉学部理学療法学科
  • 川村 博文
    広島県立保健福祉大学保健福祉学部理学療法学科
  • 岡崎 大資
    広島県立保健福祉大学保健福祉学部理学療法学科
  • 甲田 宗嗣
    広島県立保健福祉大学保健福祉学部理学療法学科
  • 小林 和彦
    筑波技術短期大学理学療法学科

抄録

【目的】寝たきり状態の原因として転倒事故が注目されている。高齢者の姿勢制御機構では視覚系への依存度が高く、視覚性姿勢制御能力を開発することが有効と思われる。このような能力の開発には、視覚誘導性到達運動(Visually Guided Reaching Movement: VGRM)が効果的であるという知見が最近の脳科学研究で明らかになった。VGRMとは、視覚空間情報をもとに自分の手を目標へ動かすことであり、日常生活の中で頻繁に行われる運動ではあるが、脳内の神経機構としてはかなり難易度の高い運動課題とされている。そこで、本研究の目的は、VGRMをゲーム感覚で練習することが可能となる音楽運動療法用楽器を開発し、その効果を評価することである。【対象】対象は神経系疾患の既往がない70歳以上の健常高齢者16名であり、その中から効果の各評価値に有意差がないよう練習群と非練習群を各8名選択した。被験者全員には実験の趣旨と方法を説明し同意を得た。【方法】楽器の構成は、打楽器として電子ドラムパッド、パッド固定のためのフレキシブル楽器フレームおよびパッドアタッチメントであり、被験者の能力や目的とする運動課題に応じて取り付け位置や角度を自由に設定可能とした。各パッド部分には発光ダイオードが設置され、発光の制御はノートパソコンにより行われた。被験者に要求する運動課題は、健側手に打楽器用のスティックを持ち、立位で音楽(故郷や荒城の月などの愛唱歌)と連動して光るパッドを叩くというVGRM課題であった。パッドは、被験者の周囲に8個設置されており、光らせるパッドの位置や順序、あるいはテンポやリズムにより運動課題の難易度を設定した。被験者には1日_から_2日の休息を入れて合計5回の練習を実施した。1回の練習は、バイタルチェック終了後理学療法士の監視下で約20分間行われた。効果の評価項目は、Bergの機能的バランス尺度、起立―歩行検査、機能的リーチ検査、静的重心動揺検査、そして動的姿勢制御検査(Biodex Stability System)とした。練習開始前と5回練習終了後に同様な評価項目を測定し、練習前後の各評価項目を比較検討した。統計解析方法は群間比較にMann-Whitney’s U testを使用し、危険率5%以下を有意とした。【結果】練習群と非練習群との群間比較では、起立―歩行検査の所要時間が練習群で有意な短縮、機能的リーチ検査の到達距離が練習群で有意な延長、そして動的姿勢制御検査の安定性指数が練習群で有意な改善を認めた。その他の評価項目では有意差を認めなかった。【考察】今回開発された楽器の使用による練習の結果、基本的な起立移動能力や動的姿勢制御能力が有意に改善した。これは音楽のリズム要素が持つ運動制御機構の賦活効果、および視覚性到達運動課題により視覚性姿勢制御能力が向上したものと推察された。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680541884416
  • NII論文ID
    130004577549
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.846.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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