パーキンソン病患者における起立時重心移動ベクトルの特徴

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【目的】パーキンソン病患者ではその動作の特徴として重心移動の円滑さが失われることが知られており,起立動作時介助を必要とする場合も多い.この現象は動作時に重心が後方に残ってしまうためであるとされているが,起立動作時どのように力を発揮しようとしているのか十分に検討されていない.そこで本研究では手すり使用起立動作時,重心に対してどのような力が働くのかについて検討することを目的とした.<BR>【方法】分析対象はパーキンソン病群8名(男性6名,女性2名,平均年齢76.0歳(69-84),yahrの重症度分類III5名,IV3名),対象健常若年群11名(男性7名,女性4名,平均年齢20.0歳(19-21))とした.対象者には事前に説明し同意を得た.なお本実験は首都大学倫理審査委員会の承認を得た.分析対象動作は膝窩高に設定した座面から,左上肢にて立位時大転子側方となるよう設定した横型手すりを把持し独力にてゆっくり起立するものとした.起立が不可能である場合は中止していいものとし,パーキンソン患者群に対しては近位見守りとし転倒の危険に備えた.なお施行は各被験者5回行い,対象者中起立動作が遂行可能であった施行のみを分析対象とした.データ計測は床反力計(キスラー社製)および手すりの装着した6軸力覚センサ(ニッタ社製)に動作中の床反力および手すりにかかる負荷を進行方向,左右方向,鉛直方向3次元にて記録した.床反力データは左右下肢データを合成して記録した.データは床反力および手すり力覚センサよりのデータを合成し重心に対する力のベクトルを算出し,床面に対する角度と力の強さ(N)といて記録した.なお今回分析対象としたのは座位姿勢から起立動作を開始する際手すりにかかる初期負荷をトリガーとし,起立動作開始の瞬間のデータとした.統計は2群間の平均値の差について対応のないt検定を用いて行い.有意水準を5%とした.<BR>【結果】分析の結果起立動作開始時重心にかかるベクトルの床面に対する角度は,健常成人群は平均76.68°(sd4.18),パーキンソン群は85.02°(sd3.86)でありパーキンソン群で有意に大きかった.ベクトルの大きさには健常成人群は平均166.21N(sd25.07),パーキンソン群は378.74 N(sd170.00)でありパーキンソン群で有意に大きかった.<BR>【考察】以上椅子座位から手すりを把持し起立動作を開始する瞬間,パーキンソン患者では重心にかかる力のベクトルが健常者成人に比較し床面に対する角度が大きく,力の大きさも拡大することが示された.健常者の起立動作では重心をあらかじめ前方へ移動させ曲線的に上方へ転じることが知られている.このことに対してパーキンソン群では起立初期から直線的に上方へ向かおうとする傾向が示されたと考えられる.またこの角度が起立時の負荷を増大させていることが示唆された.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2005 (0), B0221-B0221, 2006

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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