非麻痺側の過剰な活動を抑制し,麻痺側の活動が向上した感覚障害を伴う一症例
書誌事項
- タイトル別名
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- ―立ち上がり動作を通して―
説明
【はじめに】<BR>臨床現場で,非麻痺側の代償運動や努力性の強い動作を遂行する脳血管障害による片麻痺症例を多く見受ける.今回,非麻痺側の過剰な努力が軽減することで,麻痺側の活動性が向上した一症例を運動制御の面から若干の考察を加え報告する.<BR>【症例】<BR>倫理規定に基づいた説明し、了承を得た40代男性.右被殻出血による左片麻痺,構音障害,嚥下障害を呈し,翌日に開頭血腫除去術施行.その後3か月を経過した現在Japan Coma Scale:0.Brunnstorom Recovery Stage上肢2~3手指2下肢3.表在・深部感覚重度鈍麻.FIM:74点.BI:50点.寝返り・起き上がり・端座位:自立,立ち上がり:中等度介助レベル,立位:軽介助レベル.注意障害,構成障害等およびボディイメージの障害がみられる. <BR>【理学療法】<BR>端座位において,抗重力活動が低下しているため非麻痺側上下肢による支持面への押し付めた固定的な姿勢保持であった.これにより立ち上がりは,離殿時の前方・左方への重心移動や麻痺側下肢への荷重が制限され,介助下で離殿すると麻痺側下肢の支持性低下により麻痺側に傾いたまま非麻痺側下肢で立ち上がろうとし介助を要する.これに対して支持面からの情報が中枢へ正しく伝わる準備として,両下肢・体幹のアライメント修正を行った.次に,端座位で支持面からの情報を強調しながら前方への重心移動と共に,下肢への荷重を促した.更に立ち上がり動作の中で理学療法士は非麻痺側から身体を接することで触運動覚情報を手がかりとして与えながら,非麻痺側の足底からの情報を強調させた.<BR>【結果】<BR>支持面からの情報および非麻痺側からの手がかりを与える事で,非麻痺側上下肢による支持面への押し付けが減少し,前方への重心移動および離殿が容易になった.また,離殿から麻痺側下肢の伸展活動が向上し,手すりを用いずに側方介助で立ち上がりが行えるようになった.<BR>【考察とまとめ】<BR>正常な機能的姿勢運動の背景には,正常な相反神経関係があり,脳卒中後遺症は正常な相反神経関係が障害された状態とも言える.本症例は非麻痺側の代償,努力的な運動で過度に身構えてしまい,外部からの必要な情報を受け取れていない.また,感覚障害によるボディイメージの障害,恐怖心により異常な姿勢緊張,非麻痺側の努力性を更に強めている.末梢からの情報がしっかりと送られないと姿勢コントロールを行うことができないため,支持面からの情報,触運動覚を通し押し付ける情報から支える情報へ変える事を強調し,過剰努力が減少した.それにより,より対称に近い姿勢・動作を行うことができ,麻痺側も動作に動因することで麻痺側下肢の活動性の向上にもつなげることができた.今回,運動制御の基礎知識を若干ではあるが見直すことができた.治療手技にとらわれず基礎となる知識の習得にも,引き続き励む必要がある.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), B3P3287-B3P3287, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680542636416
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- NII論文ID
- 130004580562
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可