脳卒中片麻痺者による“外転分回し歩行”の相対的タイミングに関する検討

説明

【目的】運動学習・制御理論であるスキーマ理論では,同一の一般化された運動プログラム(generalized motor program,以下GMP)より展開される運動は,遂行速度が変化しても運動の枠組みを構成する相対的タイミングは変化しないと考えられている。本研究では,脳卒中片麻痺者で多くみられる“外転分回し歩行”について,GMPの概念に基づき検討し,その歩行パターンの特性を明らかにすることを目的とした。今回の報告では,歩行速度に対する相対的タイミングの変化から,片麻痺者の外転分回し歩行のパターンとその特性について検討する。<BR>【方法】対象は回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳血管障害による片麻痺を有する患者18名(平均年齢51.6±15.2歳)であり,平行棒内を自力で歩行できる方とした。平行棒内歩行中の対象者の下肢の動きを後方からビデオ撮影し,画像より重複歩時間,麻痺側足部が最大外転位となるタイミングを算出し,歩行パラメータとした。また足尖離地直前に足部外旋が生じた対象者では,最大外旋位のタイミングも算出した。測定条件は,「普通に歩く」「「少し速く歩く」という2つの条件を設定し,測定は3週間に1度の頻度で行った。なお本研究は本学倫理委員会の承認を得て行った。<BR>【結果および考察】18名の対象者ごとに,各歩行パラメータを算出し,測定回と歩行速度に関する二要因分散分析を行った。歩行速度に関する分析結果において,「普通」と「速く」の条件間で重複歩時間に変化がみられなかった対象者は3名であった。このうち2名が測定期間中Brunnstrom stage(以下,B/S)が2に留まったものであった。この3名を除く15名の対象者は「普通」に比べ「速く」の条件では,有意に重複歩時間の短縮がみられた。この中の12名には,最大外転位と最大外旋位の相対的タイミングが「普通」と「速く」の条件の間で有意な差はみられなかった。これは,各対象者がその測定時期に持っている個別のGMPから,速度の異なった歩行パターンを展開していることを示す結果である。一方,最大外転位や最大外旋位の相対的タイミングが変化した対象者は3名であり,速度の変化に対し異なる運動プログラムから歩行パターンが展開されていたと考えられる。この中の2名はB/S5の時期で相対的タイミングが変化していた。<BR> これらの結果から,片麻痺者の外転分回し歩行において,歩行速度に対して相対的タイミングが変化するということは,多様な条件に対応できるGMPが形成されていない状態と考えられる。従って,こういった時期では,新たな運動プログラムを学習し歩行パターンの改善を図る,またはひとつのGMPから多様な条件に適応した運動パターンを展開できるように多様な練習を進めるといった介入が重要になると考える。<BR><BR><BR><BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2007 (0), A1308-A1308, 2008

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680542835968
  • NII論文ID
    130005015059
  • DOI
    10.14900/cjpt.2007.0.a1308.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ