延髄外側症候群を呈した3症例に対する理学療法効果の一考察
説明
【はじめに】後下小脳動脈の閉塞による延髄外側の梗塞は、発話と嚥下をおかす最も劇的な脳血管障害の一つと言われ、病巣側の顔面の温痛覚脱失、反対側体幹・四肢温痛覚脱失、病巣側の失調・筋緊張低下、ホルネル症候群といった多彩な症状を呈する.今回、3症例に対し理学療法を施行し良好な結果が得られたため、治療効果を考察し、ここに報告する.なお、今回実施した評価・治療に関してその主旨を説明し本人の同意を得た.<BR>【症例】3例とも発症から約1ヶ月にて当院回復期リハビリテーション病棟入院.‹症例1›右延髄外側梗塞.30代男性.右上下肢・体幹失調、右顔面・左四肢体幹表在知覚低下、ホルネル症候群、嗄声、嚥下障害あり鼻より注入食摂取.端座位保持可能.立位はwide base、閉眼立位にて動揺増強、閉脚立位保持困難、片脚立位保持困難.歩行器歩行可能だが殿部・体幹の動揺が強い.‹症例2›右延髄外側梗塞.60代女性.右上下肢・体幹失調、左上下肢・温痛覚鈍麻、HDS-R17点.端座位は閉眼にて右側に倒れる.立位保持困難にて体幹動揺著明.病棟内車椅子自走.‹症例3›右延髄外側梗塞.70代女性.右下肢・体幹失調、左足底にて触覚軽度鈍麻.端座位にて右に傾きあり.立位軽度動揺あり、閉眼にて増強.閉脚立位困難.歩行は平行棒内にて右立脚時に右側へ倒れる.病棟内車椅子自走.<BR>【理学療法】視覚的フィードバックを用いた姿勢調節を中心に行い、同時に体幹の筋緊張を上げる練習、重心移動練習等を実施.<BR>【結果】‹症例1›約3ヶ月後自宅退院.片脚立位右80秒・左32秒.屋外歩行連続400m可能.階段昇降自立.食事は口腔摂取可能となるが水分のみ軽度トロミ.ホルネル症候群、知覚障害は残存.‹症例2›約3ヶ月後自宅退院.屋内T杖歩行自立、屋外老人車歩行自立し300m程度可能.‹症例3›入院約3週後、端座位の右側への崩れが軽減し、歩行器歩行病棟内自立、独歩近位監視にて90m可能となる.<BR>【考察】3例とも比較的短期間の間に身体機能の向上が見られ、視覚性フィードバックが非常に効果的であった.今回、完全に一貫したアプローチを行っておらず、小脳に障害のある症例と比較したわけでもない.しかしながら、近年、小脳は注意や記憶、視空間認知、計画、言語などに関するさまざまな課題の遂行に関与しており、大脳で広く分散した認知処理過程を円滑にまとめる機能が報告されている.よって、3例とも小脳は障害を受けておらず、視覚と体性感覚の情報処理過程が円滑に行われ、運動学習が行いやすかったのではないか、と推察される.<BR>【まとめ】今回の症例は延髄梗塞に限っているため、小脳に障害をきたした場合との比較検討が必要である.また、今後、小脳と高次脳機能の関係性に着目したアプローチを検討する必要性を感じた.
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2008 (0), B3P2263-B3P2263, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
キーワード
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680543050368
-
- NII論文ID
- 130004580458
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可