重度感覚障害を呈した脳卒中片麻痺患者の下肢に対する認知運動療法

  • 末吉 夏子
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科
  • 市村 幸盛
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科
  • 大植 賢治
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科 畿央大学大学院健康科学研究科
  • 浦 千沙江
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科
  • 市村 恭子
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科
  • 小野 洋平
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科
  • 櫻木 美嘉
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科
  • 竹内 奨
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科
  • 富永 孝紀
    医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科

Bibliographic Information

Other Title
  • ―運動麻痺の改善を目的とした摩擦の識別課題の実施―

Description

【はじめに】近年,随意運動の発現には「知覚・注意・記憶・判断・言語」などの認知過程の働きが重要であるとされている(Perfettiら 1998).運動感覚には関節運動時の皮膚の動きも関与する(岩村ら2001)ことから,我々は摩擦と関節運動時に起こる皮膚の動きの類似性に着目した摩擦方向の識別課題を考案し,軽度感覚障害を呈した脳卒中片麻痺患者の運動麻痺と動作の改善を報告した(末吉ら2008).今回,重度感覚障害を呈した脳卒中片麻痺患者においても,摩擦の接触面と摩擦方向を識別させることで,膝関節の随意運動が出現し歩行能力に改善が得られたので報告する.<BR>【症例紹介】40歳代男性.左被殻出血にて右片麻痺を呈した.発症3ヶ月後の下肢Br.stageはIII-1,表在感覚は重度鈍麻,深部感覚は脱失しており,摩擦による触圧覚の有無は認識可能であったが,運動感覚の認識は困難であった.高次脳機能障害として軽度の混合性失語症・選択性注意障害を呈していた.立位荷重時に大腿四頭筋に反射的な収縮があるのみで,背臥位・坐位にて膝関節伸展は出現しなかった.平行棒内歩行監視レベルであり,右遊脚後期の膝関節伸展が見られず歩幅は減少していた.<BR>【病態解釈・治療仮説】感覚受容器から脳への感覚入力の低下に加え,選択的に目的とする関節へ注意を向けることが困難であるため,運動感覚の認識が低下していると推察された.そのため,膝関節伸展時の運動感覚の予測が困難となり,さらに実際の感覚入力との誤差を修正することができず,大腿四頭筋の運動単位の動員がえられないと考えられた.そこで認識可能な摩擦を用いて,皮膚の動きに注意を向け摩擦方向を正しく認識できることで,運動感覚の認識が可能になると考えられた.認識された運動感覚を基に予測と修正ができ,膝関節伸展の随意運動が出現すると仮説立てた.よって課題を摩擦方向の識別とし,表在感覚の予測と結果の比較照合により,皮膚の動きの方向を認識させることとした.<BR>【認知運動療法】建築用製材のピラマットを5×10cmに切り,大腿前面に接触させ,皮膚との接触面を保持し,一定の速度で滑らせた後,摩擦の接触部位と移動方向の識別を求めた.<BR>【結果】治療を1日1時間,計2週間施行した結果,膝関節の深部感覚が中等度鈍麻に改善した.背臥位・坐位で膝関節伸展が出現し,下肢Br.stageはIV-1と改善を認めた.四点杖歩行監視レベルとなり,右遊脚後期の膝関節伸展が出現し歩幅の拡大を認めた.<BR>【考察】重度感覚障害を呈した本症例においても,認識可能な触圧覚を利用することで,皮膚の動きから得られる運動感覚の認識と予測が可能となり,運動関連領域の活動が得られ運動単位の動員につながったと考えられた.また,深部感覚の認識が困難な場合でも,運動の知覚制御が摩擦の識別課題といった表在感覚で代用できる可能性が示唆された.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543185280
  • NII Article ID
    130004580479
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.b3p2284.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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