片麻痺患者の座位からの歩き始め動作における姿勢制御(第3報)

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  • ―なぜ片麻痺患者は立ってすぐに歩きだせないのか―

抄録

【目的】日常生活場面で、座位からの歩き始め動作(STW)は頻繁に行われる一方、片麻痺患者では円滑さに欠け、起立のみ(STS)や歩き始めのみであれば安定しているが、STWとなると立位で一定の重心制御期間を必要とする.我々はSTWに焦点を当て研究してきた結果、歩行能力向上に伴い麻痺側鉛直方向床反力、麻痺側膝伸展モーメントの増加や、非麻痺側足関節・膝関節の戦略が変化し、動作パターンが立ってから歩く安定型から、立ちながら歩く効率型へ変化することが分かった.今回はSTSとSTWの比較から若干の知見を得たので報告する.<BR>【方法】対象は承認された倫理審査に従って、インフォームドコンセントが得られた脳卒中片麻痺患者18名(年齢59.7±12.3歳、発症後期間236.3±376.4日、身長160.3±6.9、体重57.9±13.1Kg).歩行自立度は屋内外自立6名、屋内自立5名、屋内見守り7名.40cm台座位から両手下垂位でSTSと5m前方までのSTW(第一歩は麻痺側と規定)を3次元動作解析装置・床反力計にて計測した.分析期間は離殿までを1相、足関節最大背屈までを2相、股関節伸展終了までを3相、体幹伸展終了までを4相とし、抽出されたSTSの運動力学的数値(圧中心側方偏倚、関節角度、加速度、床反力、関節モーメント)からSTWの数値を引き、算出された動作間変化量と歩行能力段階(自立度順とし、同自立度内では10m歩行スピード順とした)の関係について5%の危険率でSpearmanの順位相関係数を用い検定した.<BR>【結果】圧中心軌跡からの観察として、高歩行能力者はSTW時にSTSよりも軌跡が正中位へ収束する傾向があった.STS-STWの差では歩行能力の向上に伴いSTWが1~4相の合計時間短縮(r=-0.481)、2相の非麻痺側股関節モーメント増加(r=0.602)、麻痺側足関節モーメント増加(r=0.588)、3相の非麻痺側股関節モーメント増加(r=0.512)、麻痺側膝関節モーメントの増加(r=0.507)、進行方向床反力の増加(r=0.659)、4相の進行方向加速度増加(r=0.683)がみられ、その他の数値においては大きな相関は見られなかった.<BR>【考察】仮説として低歩行能力者のSTWはSTSと比べて歩行に向けた慎重な姿勢制御の出現が予測されたが、STS-STW差の分析からは歩行能力が低くなるにつれ2動作間の運動力学的違いはほとんど見られず、歩行能力向上に伴いSTSに上乗せされた力学的数値が観察された.高歩行能力者は2相で非麻痺側股関節・麻痺側足関節モーメントの増加が進行方向床反力を生み出す準備を行い、3相で麻痺側膝伸展モーメントと共に進行方向床反力を増加させ、4相の進行方向加速度を生むことで、短時間で円滑に起立から歩行への変換が成されたと思われる.しかし低歩行能力者は、このように振り出し側である麻痺側下肢を重心移動の駆出力として積極的に使用することが身体機能上困難なため、非対称なまま一旦立位になってから歩き出すこととなり、これが立ってすぐに歩きだせない原因の一つであると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), B2S2031-B2S2031, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543366528
  • NII論文ID
    130004580366
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.b2s2031.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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