車椅子における平地走行とスロープ走行の比較

DOI

抄録

【目的】<BR>近年、車椅子は多種多様であり、注文生産化の流れが拡大している.車椅子のハンドリム位置は操作性や駆動力に大きな影響を及ぼし、使用者への適合指針は技術者の経験論に大きく左右される.われわれは、第43回日本理学療法学術大会において平地走行における車椅子最適設計手法を報告したが、車椅子使用者は実生活で坂道や段差越えなど場面に直面する機会も少なくない.平成6年にハートビル法が制定されて以来、公共施設には多くの人が円滑に使用できるような措置がとられたため、生活の至る所にスロープをみかける機会が増えた.本研究の目的は、平地走行とスロープ走行における上肢とハンドリムの接点で発揮される力(以下、発揮力)を算出したものと、車椅子駆動時におけるトルク量と力の方向を比較検討することである.<BR>【方法】<BR>対象は22歳の健常男性3名とした.発揮力は各関節角度と最大トルクから算出した.最大トルクはCybex norm(CSMI社製)で測定した.ある1点における様々な方向へのトルク量(操作力多面体)を発揮力から算出した.車椅子の車軸に力覚センサ、位置センサを取り付け、駆動計測を行った.スロープは距離4.5m、幅1.5mで、傾斜角度はハートビル法で定められた勾配上限値である1/12に設定した.走行は自由速度で駆動し、ハンドリムにかかるトルク量と力の方向を計測した.比較のため同様の被験者による平地走行実験も行った.対象者には本研究の目的と内容を十分に説明し、同意を得た後に測定を実施した.<BR>【結果】<BR>発揮力に関しては、矢状面、前額面共に平地走行時よりもスロープ走行時にハンドリム接線と力の方向がほぼ同一方向であった.発揮力を時間的推移でみると、平地走行時では駆動後期に増加するのに対し、スロープ走行時は早い段階で増加した.操作力多面体の矢状面では長軸方向に着目すると平地走行に比べ、スロープ走行ではハンドリム接線との角度がほぼ一致した.<BR>【考察】<BR>本研究は車椅子における平地走行とスロープ走行を比較検討した.今回の結果からスロープ走行は1)ハンドリム接線と力の方向がほぼ一致していた、2)発揮力は早い段階で増加し始めていたということから、スロープを登る際、無意識の内にハンドリムに力を入れやすい姿勢と位置を取り、走行するのではないかと考えられた.また、スロープ走行は、平地走行に比べて発揮力が効率良くハンドリムの接線方向に向いており、漕ぎ始める際の位置もハンドリムの頂上よりやや前方であった.これは操作力多面体の評価より車椅子の駆動効率とハンドリム上で大きな力が発揮しやすい向きを同時に、より早く実現できるためであると考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), E3P3246-E3P3246, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543548288
  • NII論文ID
    130004581431
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.e3p3246.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ