mirror therapyによる運動学習機序の検討

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抄録

【目的】幻肢痛に対する治療として考案されたmirror therapy(以下MT)が、脳卒中片麻痺患者のリハビリテーション(以下リハ)に応用され、その効果が数多く報告されている。MTは鏡像による錯視を利用して、実際には動かしていない四肢が動いているように錯覚することでその効果が得られると考えられている。近年のfMRIやTMSを用いた報告では、MTにより運動同側運動野や小脳といった運動関連領野だけでなく、側頭葉の活動性亢進も示唆されている。しかしこれらの先行研究では、MTによる脳の活動性変化と運動学習効果はそれぞれ示唆されているが、その関係性は明らかにされていない。そこで今回、経頭蓋磁気刺激(以下TMS)を用いて運動同側の運動野の活動性変化と運動学習効果の関係を検討した。<BR>【方法】対象はEdinburgh利き手テストで右利きと判定された健常成人15名(22.6±2.7歳、男性12名、女性3名)を対象とした。TMS刺激は直径7cmの8字コイルを頭蓋骨に対して接線方向に固定し、右半球上のにコイルを設置した。刺激領域は右一次運動野(M1)とし、左背側骨間筋(FDI)より運動誘発電位(MEP)を表面筋電図にて導出した。運動域値は、安静時(rMT)にFDIより10回中5回以上MEP振幅が50μVを越える最小の刺激強度とした。同様に、最大筋収縮の20%程度の筋収縮時にFDIより10回中5回以上MEP振幅が100μVを越える最小の刺激強度で運動域値を測定した(aMT)。また、MEPが0.5~1.0mVとなる強度での刺激を介入前後で実施した(MEP)。運動課題は2つのコルクボールを30秒間、左手で反時計回りにできるだけ早く回す課題とし、介入前後でその回数を比較した。介入は2群に分けて実施した。mirror therapy群(MT群:10名)は、実際は右手でボール回しを行っている所を、鏡を利用して左手が行っているように錯覚させる方法を30秒間10セット実施した。一方non-mirror therapy群(nMT群:5名)は、ボール回しを行っている右手は隠され、全く動いていたない左手を注視しながらMT群と同様30秒間10セットのボール回しを実施した。TMSによる脳機能評価は運動介入前後に行った。<BR>【説明と同意】本研究は、京都大学倫理委員会の承認を得て実施した。また、被験者は医師から口頭で実験内容を十分説明され、実験への参加は任意とした。<BR>【結果】MT群では、ボール回しの回数が18.5回から23.7回に有意に増加したが、nMT群では有意な変化は見られなかった。脳機能変化に関しては、aMTとMEPにおいてMT群で有意に増加を示したが、nMT群では有意差は見られなかった。これらのことから、M1興奮性の増大と運動学習効果の関係が示唆された。<BR>【考察】今回TMSを用いて運動介入による脳機能変化と運動学習効果の関係を検討した。その結果、MT群では運動同側運動野の活性化が促され、運動学習効果も出現していたが、nMT群では運動野の活性化、運動学習効果ともに出現しなかった。このことから、運動野の興奮性増大と運動学習効果の関係性が示唆された。運動野の興奮性増大に関しては、先行研究より鏡の使用が運動イメージへの補助的役割を果たし、運動野を活性化していることが示唆されており、今回の結果も運動イメージが関与している可能性がある。また、課題とされた運動の視覚入力により、mirror neuron systemsが活性化されたことも運動野の興奮性増大に寄与した可能性がある。mirror neuron systemsに関しては、今回用いた課題がボール回しという意味のある、手内筋特異的動作であったことが、FDI支配領域の脳機能変化に影響を与えたものと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回の結果は、MTによる運動同側の運動野の興奮性増大と非介入側の運動機能の向上の関係を示唆している。MTは臨床でも比較的簡単に導入できる理学療法ツールであり、本研究は今後更なるエビデンスの構築における一つの可能性を示唆していると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1025-A4P1025, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543586560
  • NII論文ID
    130004581774
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1025.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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