二重課題下での若年者における歩行精度

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抄録

【目的】<BR> 二重課題とは要求される二つの課題を同時にこなすことであり,人は日常生活において二つの課題を同時に行うことが多くある.理学療法においても,対象者が歩行練習をおこなっている際に杖の使い方や荷重の方法について指導することは二重課題にあたる.虚弱高齢者における二重課題下での歩行に関する研究では,歩行時間が延長することや姿勢動揺が増大することなどが報告されている.しかし,二重課題下での歩行時の歩幅の変動による歩行精度の変化については明らかにされていない.そこで本研究では,二重課題が高齢者の歩行精度におよぼす影響を見る前段階として,二重課題が若年者の歩行精度におよぼす影響について検討することとした.<BR>【方法】<BR> 対象者は健常若年者(平均年齢20.0±1.0歳)30名であった.対象者にFAX用紙を床面に貼り付けた長さ16mの歩行路で歩行を行わせた.歩幅が計測できるよう被験者には市販の靴(チヨダ物産(株)社製)の踵部最後部から2cm前方の一部分をくり抜き朱肉を埋め込んだ靴を着用させた.条件として歩行中は歩行路の最終地点においた目標物を注視させ,歩行速度は自由とした.歩幅の測定は歩行開始時と終了時の変動を除外するため,歩行路の前後3mを除いた中間の10mで行った.課題は歩行のみを課したSingle Task(以下ST)と,歩行課題中に認知課題を課したDual Task(以下DT)とした.DTでは上述した歩行課題中に認知課題として逆唱課題を課した.各条件における歩幅の測定は,FAX用紙におけるそれぞれの朱肉の最後端からFAX用紙の長軸に垂直な線を引き,一側の朱肉の最後端から他側の朱肉の最後端までの垂線間をメジャーを用いてmm単位で測定した.各条件での10mにおける歩幅の平均値を各歩幅から減じ,その絶対値の平均を各個人の誤差とした.両条件で得られた歩幅の比較には分散の比の検定を用いた.<BR>【説明と同意】<BR> 被験者には本研究の目的,実験方法について十分な説明をし,同意を得た後に測定を行った. <BR>【結果】<BR> STとDTで得られた歩幅のばらつきの平均はそれぞれ1.64±0.39cm,2.63±0.75cmであった.STとDTにおける歩幅のばらつきを比較したところSTに比べDTでは有意にばらつくことが明らかとなった(p<0.05).<BR>【考察】<BR> 本研究の結果から,STとDTにおける歩幅のばらつきを比較したところSTに比べDTでは有意にばらつくことが明らかとなった.また,そのばらつきは約1.6倍程度であった.高齢者を対象とした立位における先行研究では,STに比べてDTではバランスの低下が生じることが報告されている.そのため,本研究においても先行研究と同様にバランスの低下が生じたことで歩幅に誤差が生じたものと考察される.加齢に伴い固有感覚が低下する高齢者においては,若年者に比べてSTだけでもかなりの誤差が生じると予測される.その上,DTを課した場合ではさらに大きな誤差が生じると推測される.そのため,高齢者における歩行練習などの際は注意や指示の与え方には注意が必要であると考えられる.しかしながら,このことについては推測の域を脱しないことから今後検討していく必要があると考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究では,二重課題が若年者の歩行精度におよぼす影響について明らかとした.DTはSTに比べ歩行精度に有意なばらつきを生じさせることから注意が必要であると考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1031-A4P1031, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543589120
  • NII論文ID
    130004581780
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1031.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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