立ち上がり可能な高さと立ち上がり時間

  • 金井 利栄
    医療法人社団愛友会 千葉愛友会記念病院 リハビリテーション科
  • 古里 幸乃
    医療法人社団愛友会 千葉愛友会記念病院 リハビリテーション科
  • 河井 美波
    医療法人社団愛友会 千葉愛友会記念病院 リハビリテーション科
  • 杉本 義久
    医療法人社団愛友会 千葉愛友会記念病院 整形外科

説明

【目的】<BR> 立ち上がり動作は日常生活において基本となる重要な動作であり、立ち上がり動作が困難になると歩行や、日常生活動作能力が低下してくることも少なくない。立ち上がり動作獲得のためにトレーニングをすることで、立ち上がることが可能な最低の座面の高さ(以下、調整座面高)は変化する。また、ある一定の台の高さからの立ち上がりでは、立ち上がり能力の高い者で立ち上がり時間が短い。しかし、調整座面高と立ち上がり時間の関係については明らかにされていない。<BR>そこで、立ち上がり能力の低下した者に対し、トレーニングによる能力の向上にともない、トレーニング前の調整座面高においても立ち上がり時間の短縮が起こるかについて調べる目的で以下のような研究を計画した。<BR>【方法】<BR> 対象は、当院入院中の整形外科疾患を呈する65歳以上の高齢患者のうち、座面の調節により上肢支持なしでの立ち上がりが可能であり、中枢性疾患や、立ち上がり動作を阻害するような関節可動域制限や疼痛のない20名とした。検査項目は、1)調整座面高、2)調整座面高での立ち上がり時間(全体:動作開始から動作終了まで、1相:動作開始から殿部離床まで、2相:殿部離床から動作終了まで)、3)股関節屈曲筋力、膝関節伸展筋力とした。方法は対象症例に対し2週間の自主トレーニングを指導し、その前後で1)から3)を測定した。自主トレーニングは端坐位にて足関節部におもりを巻き、股関節屈曲運動と膝関節伸展運動を1日10回3セット実施した。自主トレーニングの実施の有無については毎回確認を行った。調整座面高は、ティルトテーブルを使用し20mm刻みで調節し十分休憩をとりながら連続2回の立ち上がりが可能な高さとした。立ち上がり動作の開始肢位は、腕組み坐位で体幹は直立位、股関節は内外転中間位で足底全面接地とした。足角は楽な位置とし、座縁は坐骨前部とした。起立動作は開始の合図(口頭)と同時に行うこととし、終了肢位は体幹が直立し、下肢伸展が終了した時点とした。測定に際し、測定手順について説明を加えるとともに、2回の練習を実施した。その後2回の測定を実施した。時間測定はデジタルカメラを使用して動作を撮影後、動画編集ソフトのタイマー機能を用いて計測した。筋力はハンドヘルドダイナモメーター(オージー技研株式会社製)を使用し荷重圧(N)を測定後、関節トルク体重比(Nm・kg-1)を求めた。検査結果はt検定を用い、有意水準は5%未満で比較検討した。<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言をもとに、研究の目的・方法・個人情報守秘を口頭および紙面にて説明し、同意書の署名にて承諾を得た。<BR>【結果】<BR> トレーニング前に比べトレーニング後では、すべての症例で立ち上がれる高さは低下し、低い座面からの立ち上がりが可能となった。また、トレーニング前の調整座面高と同一の高さの座面からの立ち上がりでは、トレーニング後1相・2相に分類しての立ち上がり時間に有意差は認められなかったが、立ち上がり全体の時間は有意に減少した(p<0.05)。筋力測定においては左右膝関節伸展関節トルク体重比には有意差が認められなかったが、左右股関節屈曲関節トルク体重比に有意差が認められた(p<0.05)。また、トレーニング後の調整座面高と、トレーニング前の調整座面高における立ち上がり時間の間に相関がみられた。<BR>【考察】<BR> 椅子からの立ち上がり動作は、1)坐位姿勢における安定した支持基底面から足部のみの支持基底面に身体重心を前方移動させる2)身体を上方移動して立位を完成させるという動作に分けられる。また、筋活動としては、まず股関節屈筋、足関節背屈筋が先行して働き、殿部が離床し抗重力伸展活動を開始する時点で膝関節伸筋が活動を開始し、続いて体幹伸筋、そして股関節伸筋、足関節底屈筋が持続的に活動し立ち上がりが終了する。今回、2週間のトレーニングで股関節屈曲筋力の増強がみられ、トレーニングによる効果として、立ち上がり可能な高さの低下と、トレーニング前と同一の高さからの立ち上がり時間の短縮がみられた。股関節屈曲筋力増強が、動作初期の体幹前傾のきっかけとなり重心の前方移動を促し、立ち上がり能力が向上したと考えられる。また、立ち上がり可能な高さと時間の関係が明らかとなり、トレーニングに際して、座面の高さを変えなくてもトレーニング前の高さでの立ち上がり時間の短縮がみられれば、調整座面高も低くなっていると推察することが可能となった。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の結果より、臨床において立ち上がり能力の低下した患者に対し、立ち上がり可能な最低の高さからの時間の変化を計測することで、トレーニングによる立ち上がり能力の簡便な効果判定の一つとして役立つのではないかと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1051-A4P1051, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543621888
  • NII論文ID
    130004581799
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1051.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ