坐面の高さ変化における立ち上がり動作の検討

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  • 体幹戦略における健常人とCVA患者の比較から

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【目的】<BR> 我々は日常生活を送る中で様々な環境に適応して動作している。立ち上がり動作は立位での活動を成し遂げる為に必須であり、坐面の高さなど日常生活の中で多様な環境に遭遇する動作であるといえる。<BR> 臨床においてCVA患者の立ち上がり動作を評価する際、動作自体は可能であっても安定性の低下や非効率性を感じることがあり、自宅や病棟などの環境が異なった場面で実用的に遂行できないことがある。これまでの立ち上がりに関する報告の中で力学的な要求にどのような戦略で対応しているかが明らかとなってきており、中でも体幹での戦略は重要であることが指摘されている。<BR> 本研究では、CVA患者の環境の変化に対する動作を検討することを目的に、立ち上がり動作において、坐面の高さが変化した際に体幹がどのような戦略によって対応するのかを健常者と比較することで検討する。<BR><BR>【方法】<BR> 対象者は健常者10名(年齢27.8±8.3歳、男性5名、女性5名)、CVA患者8名(年齢65.9±9.4歳、男性7名、女性1名)とした。立ち上がり動作は、両手を体幹前方で軽く組んだ姿勢より、足部を任意に引いた後に楽に立ち上がるように指示した。坐面の高さは下腿長を基準100%とし、±10%、±20%の5条件を設定して各条件をランダムに3試行ずつ実施した。<BR> 健常者の右側、CVA患者の非麻痺側の肩峰、大転子、大腿骨外側上顆、外果にマーカーをつけ、デジタルビデオカメラ(IXY DV M5 canon製)で矢状面より収録した動画を二次元動作解析ソフト(ToMoCo Lite、東総システム)で解析を行った。体幹前傾最大角度は、肩峰と大転子を結んだ線と床面の垂直線でつくる角度とし、体幹前傾角速度は最大角度を要した時間で除した。個人毎に各5条件における体幹前傾最大角度、体幹前傾角速度の平均値を算出し、坐面の高さと体幹前傾最大角度、体幹前傾角速度それぞれの相関係数を求め、各個人で求めた相関係数の平均値を健常群、CVA群で算出した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究に際し、被験者全員に研究の趣旨と個人のプライバシーが守られることを約束した上で同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 坐面の高さと体幹前傾最大角度、体幹前傾角速度の相関分析を行った結果、健常群において体幹前傾最大角度との相関r=-0.72(p<0.05)となり、坐面が低くなるほど体幹前傾最大角度が増加する傾向が認められた。また、健常群において体幹前傾角速度との相関r=0.83(p<0.05)となり、坐面が低くなるほど体幹前傾角速度が増加する傾向が認められた。CVA群においては、統計的には有意でないが、体幹前傾最大角度との相関r=-0.592、体幹前傾各速度との相関r=0.21となった。<BR><BR>【考察】<BR> 立ち上がり動作の成立には、臀部と足部とで囲まれている広い支持基底面(以下BOS)から足部のみの狭い新たなBOS内に身体重心位置(以下CM)を移動させること、CMを立位姿勢まで上昇させることの2つの機能が要求される。坐面の高さが変化することでCMの位置エネルギー増加量が変化することになり、低い坐面からの立ち上がりほど多くのエネルギー増加が要求されることになる。<BR> 本研究の結果より、健常人においては坐面の高さが低くなると体幹前傾角度と体幹前傾角速度を増加することで対応しており、これらの戦略により床反力ベクトルを大きくすることで動作に利用していると考えられ、健常人の坐面の高さに対する体幹の適応戦略の一つを示していると考えられる。<BR>一方CVA群では、体幹前傾角度、体幹前傾角速度ともに坐面の高さとの明確な関係は認められず、高さの変化に対し比較的同じような動作で行なおうとしている傾向がみられた。つまり、CVA群は健常人と比較して坐面の高さの変化に対しては、いわばステレオタイプ的な動作戦略になっていると考えられる。仮に健常人は坐面の高さの変化による力学的な要求の変化に対して、体幹前傾角度や速度でもって効率よく調整しているとすると、健常人に比べCVA群ではその調節機能低下の可能性があると考えられる。<BR> 今回の研究においては、高さと体幹の戦略の対応について検討したが、立ち上がり動作にはその他様々な要素が複合的に関係している。今後は、体幹の戦略だけでなくその他の戦略も含めた立ち上がりの環境への適応を検討する必要があると考え今後の課題としたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の検討より、臨床でのCVA患者の立ち上がり動作の不安定や非効率性の印象はCVA特有の動作戦略に起因する可能性があると考えられる。CVA患者の動作を評価する際に動作の可否だけでなく、環境の変化に対してどの様な動作で対応しているのかを評価することの重要性が示唆されたと考える。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543647744
  • NII Article ID
    130004581802
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1054.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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