認知機能低下を有する高齢者の記憶学習における誤り排除学習の効果
説明
【目的】認知症における記憶障害は,生活上影響の大きい中核症状であると同時に,リハビリテーションの阻害因子ともなる.近年,記憶障害へのアプローチにおいて「誤り排除学習(errorless learning)」理論が強調されており,健忘症候群においては試行錯誤を伴う通常の学習方法に比較してその有効性が認められている(Wilson, 1994).本研究では,認知機能低下を有する高齢者の記憶学習における「誤り排除学習」の効果を,無作為化比較対照試験で検証した.<BR><BR>【方法】対象は介護老人保健施設に在住する軽度認知機能低下を有する高齢者20名とし,MMSE得点による層化無作為割付けで介入群と統制群の2群を設定した.研究に先立ち対象者と施設長には十分な説明を行い,家族も含めた同意を得て行った.両群には,8名の未知の人物の顔と氏名の対連合学習を3~4日おきに全4回行った.その際,介入群(平均年齢83.1 ± 8.2歳,平均MMSE得点20.8 ± 4.7点.)には誤りを排除した正答のみを提示し,統制群(平均年齢85.5 ± 5.3歳,平均MMSE得点20.7 ± 3.9点.)には誤り反応を喚起させた上で正答を提示した.評価は,写真を手がかりとした自発的な再生について,短期効果(学習直後の再生正答率),長期効果(前回学習から3 ~ 4日後の再生正答率),学習作用持続効果(最終回における長期効果と20日後の再生正答率)を両群で比較した.統計解析は,短期効果と長期効果については学習回数(4回)と介入条件(誤り排除/喚起)を要因とする二元配置分散分析で,学習作用持続効果については評価時期と介入条件を要因とする二元配置分散分析で行った.<BR><BR>【結果】全4回の記憶学習を終了した対象者は両群ともに7名.20日後の学習作用持続効果を評価できた対象者は,介入群5名,統制群4名であった.短期効果は,(学習)回数[F(3,36) = 3.69, p < 0.05]と介入条件[F(1,12) = 5.08, p < 0.05]の両方に有意な主効果を認めたが,回数×介入条件には有意な交互作用は認めなかった.長期効果では回数の有意な主効果を認めた[F(3,36) = 5.87 p < 0.05]が,介入条件の主効果および,回数×介入条件の交互作用を認めなかった.学習作用持続効果については,評価時期,介入条件の主効果および両者の交互作用のいずれも認められなかった.<BR><BR>【考察】軽度認知機能低下を有する高齢者の記憶学習についての無作為化比較対照試験の結果,誤り排除条件での記憶学習は誤り喚起条件での記憶学習に比較して長期効果および学習作用持続効果は認められなかったものの,短期効果は認められた.このことにより,認知症高齢者の記憶障害へのアプローチ法の一つとして誤り排除学習を用いることが有用である可能性が示唆された.<BR><BR>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2006 (0), A0647-A0647, 2007
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680543679104
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- NII論文ID
- 130005013497
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可