項部から肩にかけての張り・疼痛を訴える症例

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  • 和田 圭亮
    医療法人名圭会白岡整形外科リハビリテーション科
  • 国分 貴徳
    医療法人名圭会白岡整形外科リハビリテーション科

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抄録

【はじめに】不良姿勢が原因で,項部の張り・疼痛を訴える症例は少なくない.今回喉頭癌に対する前頚部の手術による影響から不良姿勢を呈し,項部から肩にかけての張り・疼痛を訴える症例に対し,内科的疾患の既往歴と手術癧を考慮して治療を行ったので報告する.<BR>【症例紹介】68歳の男性で,H18年10月に項部から肩にかけての張り・疼痛を訴え当院受診・リハビリテーション開始となった.既往歴として喉頭癌(37年前)があり,放射線療法を行っていた.H17年10月に胃瘻造設,H19年1月から4月まで喉頭部手術のため他院に入院,H19年6月に当院を再受診・リハビリテーション再開,H19年8月に胃瘻を除去,現在食物は経口摂取している.手術では下咽頭・甲状腺全摘出し,気管傍部清術を行った.なお報告に際し,症例に説明し同意を得た.<BR>【理学療法評価・治療】座位姿勢は頭部・上部頚椎伸展位,下部頚椎から上部胸椎後彎が増強し,前頸筋群,胸椎伸展筋の機能低下がみられた.甲状軟骨・甲状舌骨筋・胸骨甲状筋は切除されている.頭部・上位頚椎左側屈・右回旋位,上部体幹右側屈位・左回旋位,左肩甲骨挙上位をとり,骨盤右後方回旋・後傾位で右後方重心であった.両側僧帽筋上部線維・後頭下筋群,特に左僧帽筋・右後頭下筋群,左広背筋に強いstiffnessが認められ,主訴として項部から両肩,特に左側に慢性的な張りと疼痛を訴えている.下部頚椎から胸椎伸展位を保持させ,関節運動を誘導しながら頭部屈曲を行わせることで,後頭下筋群の伸張性を改善しながら前頸筋群・上部体幹伸展筋促通を図った.また,座圧を左側へと移行していきながら,体幹右回旋・体幹伸展・頭部左回旋を自動介助運動にて行わせることで,特に左僧帽筋・右後頭下筋群・左広背筋のstiffness軽減を図った.<BR>【結果】頭位前方姿勢・下位頚椎から胸椎後彎が減少し,後頭下筋群・僧帽筋上部線維のstiffnessは軽減し,症状も軽減した.しかし,側彎が残存し,頚椎から胸椎伸展保持が不十分で頭位前方姿勢は残存した.<BR>【考察】通常,頭頚部は椎体前方に位置する椎前筋・前頚筋群,椎体後方に位置する後頭下筋群・脊柱起立筋などによって支持されている.前頚部の安定性は,前頚筋群,特に甲状舌骨筋・胸骨甲状筋が甲状軟骨を介し舌骨・胸骨に付着し,その張力による前頚部の支持がつくられることで高められると考えられる.しかし本症例では,下咽頭全摘出により甲状軟骨,甲状舌骨筋・胸骨甲状筋が切除され,前頚部の支持性が低下し,頭頚部屈曲が生じる.これに対し頭部伸展筋の過剰収縮と,下部頚椎から胸椎の後彎を増強させることで対応し,症状が出現している.したがって本症例では前頚部の支持性低下を考慮し,頭頚部屈曲モーメントを軽減するように,頭部と体幹の位置関係を改善していくことが重要であると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2007 (0), C0545-C0545, 2008

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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