横隔膜ストレッチにより疼痛の改善がみられた一症例

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  • オウカクマク ストレッチ ニ ヨリ トウツウ ノ カイゼン ガ ミラレタ イチ ショウレイ

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抄録

【はじめに】今回疼痛の改善が困難な症例を経験した。理学療法開始当初は疼痛の改善が一時的であったが、横隔膜ストレッチを施行したことで姿勢に変化が生じ疼痛の改善が継続したので、本症例の経過について報告する。症例には本件に関し十分な説明と同意を得ている。<BR>【症例提示】71歳 男性 <診断名>変形性腰椎症 <既往>振動症、変形性頚椎症、脳梗塞疑い <病歴>H19.4頃より腰痛出現。4/24当院理学療法開始。以後週1回の頻度で外来通院中。<BR>【画像所見】右側のL5/S1椎間関節に変性変化を認める。<BR>【経過】4/24は骨盤後傾時に腰部の伸張痛があった。6/13は腰椎の伸展・左回旋時に、8/15は排便時に右腰方形筋・右腰腸肋筋に疼痛を呈していた。この頃までの特徴的な姿勢は、座位での頭部前方偏位、胸椎後彎位、右骨盤後傾位であり、両斜角筋・両僧帽筋や左側の腹部・背部の筋緊張が亢進していた。立位はスウェイバック姿勢で右骨盤が挙上位であり、右大殿筋の緊張が低下していた。治療としては、腰部マッサージや大殿筋ex、呼気exを施行したが、症状の一時的な改善はみられても継続性がなかった。8/30より料理時痛が出現した。体幹を軽度前傾し、頭部の前方偏位、腰椎の前彎を増強する姿勢をとっていた。この日の胸郭拡張差は腋窩レベルで2cm、剣状突起レベルで4.5cm、第10肋骨レベルで8cmであった。治療は横隔膜ストレッチを施行した。施行後の姿勢は、体幹に対する頭部の位置が後方に修正され、胸椎の伸展と右骨盤の前傾がみられ、体幹前傾時の腰椎前彎が減少していた。また、料理姿勢時痛は消失し改善が継続された。胸郭拡張差は腋窩レベルで3.5cm、剣状突起レベルで4cm、第10肋骨レベルで7.5cmであった。<BR>【考察】8/30までの治療内容は関節単独の機能改善を重視していたため、良好な姿勢変化に結びつかなかったと考えた。しかし、料理時痛に対しては、横隔膜ストレッチを施行したことで姿勢が変化し良好な結果が得られた。これは、横隔膜が弛緩したことで呼息時の肋骨の引き下げが容易になり、吸気時の横隔膜の収縮効率が上がったものと考えた。それにより腋窩レベルの拡張差がストレッチ後は2cm向上し、上部体幹のリラクセーションが得られ、胸椎伸展可動域増大、頭部の前方偏位の修正が可能になったと思われる。頭部・体幹の姿勢が適切なアライメントに近づいた結果として、右腰方形筋・右腰腸肋筋の過剰収縮が抑えられ、負担が減少し疼痛が緩和したのではないかと考えた。変形性腰椎症において、疼痛の改善が困難で姿勢異常がみられる例では、横隔膜のストレッチを用いて姿勢の変化を促すことが一つの手段として有効であることが示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2007 (0), C0586-C0586, 2008

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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