ボクシング非利き手ストレートパンチによる連続打撃で経験群と未経験群の上肢筋活動様式に違いはあるか
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- 鈴木 圭一
- NTT東日本伊豆病院
Description
【目的】ボクシング競技では非利き手によるストレートパンチ(非利き手パンチ)の習得を最優先する.更に実戦では単発打撃(単打)よりも連続打撃(連打)が多用される.初心者が非利き手パンチを円滑に打つことは難しいが,この習得には熟練者による主観的指導が主となる.こうした非利き手パンチに対して,運動学的に解析し指導の参考とすることは有益である.単打での非利き手パンチ動作に関する上肢の筋活動パターンを解析した鈴木ら(2008,2009)の報告があるが,連打での非利き手パンチに関しては見当たらない.そこで本研究では,連打での非利き手パンチ動作の基礎的な知見を得るために,上肢筋活動を測定しボクシング経験者(経験者)とボクシング未経験者(未経験者)の間にどのような違いがあるかを比較検討する.【方法】経験者は国民体育大会,全国高等学校総合体育大会出場経験のある現役高校ボクシング部員男子6名(平均年齢17.3±0.5歳,平均身長169.8±5.0cm,平均体重57.2±8.9kg,平均経験年数1.7±0.3年)とし,未経験者はボクシングなどの経験のない健常男子6名(平均年齢20.5±1.0歳,平均身長168.4±8.6cm,平均体重58.0±9.5kg)とした.連打動作の筋活動測定には表面筋電計SYNA ACT MT-11(NEC社)を用い,被検筋は非利き手側の大胸筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋長・外側頭,三角筋前・中・後部線維,僧帽筋上・中・下部線維,広背筋とした.構えは,経験群は任意とし,未経験群はボクシング教本に従った.連打数は15回で,対象者は上半身は裸,裸足とした.ボクシンググラブ(グラブ)を装着した非利き手で,専用スタンドに設置したトレーニングバッグ(バッグ)へ,可能な限り速い連打を行わせた.被検者とバッグの距離は両群とも非利き手パンチとして個人が打ち易い距離とした.連打中にバッグまでの距離が変位しないようフットワークは使用せず,検者がバッグを支え揺れを抑えた.筋電波形はサンプリング周波数2kHzでパソコンに記録し,初打と最終打を除外した13打を対象とし,波形処理ソフトBIMTUS2(キッセイコムテック社)とExcel 2003(Microsoft社)で解析した.経験の有無による筋活動時期の違いを見出すために筋電図波形を観察した.筋活動量の判断には筋電積分値を用いた.筋電積分値は,各筋活動を最大随意収縮時の割合で換算し,単位時間当たりの値に標準化した.また,表面筋電計と同期したスイッチをグラブとバッグに装着し,グラブがバッグに接触する時期(接触期)によって動作の相分けを行った.データの統計的解析には統計ソフトR 2.8.1を使用し,各筋の積分値,連打所要時間及びグラブとバッグの接触時間(接触時間)での両群の比較のためにMann-Whitney U検定を用いた. 【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り実施した.対象者に研究の目的と内容の説明を行い同意を得た.高校生については顧問監督の同意も得た.【結果】筋電図波形の観察より,両群とも,上腕二頭筋,広背筋は接触期に筋活動が開始し,上腕三頭筋長・外側頭,三角筋前,中部線維は非接触期に筋活動が開始した.大胸筋では経験群と未経験群の各5名で非接触期に筋活動が開始した.4名の経験者では,接触期中に三角筋後部線維,僧帽筋上・中・下部線維,広背筋が強い筋活動を示したが,他の2名では非接触期で僧帽筋上・中部線維が強い筋活動を示した.5名の未経験者では接触期前後に及び長く僧帽筋上・中・下部線維が活動した.上腕二頭筋,上腕三頭筋長頭は経験群の積分値が有意に大きく(p<0.05),大胸筋,上腕三頭筋外側頭,三角筋中・後部線維,僧帽筋上・下部線維,広背筋では未経験群の積分値が有意に大きい値を示した(p<0.05).連打所要時間は,経験群で平均3593.7±938.4msec,未経験群で3388.8±805.1msecと有意差は認めなかった.接触時間は経験群で平均63.5±18.3msec,未経験群で62.1±18.4msecと有意差は認めなかった.【考察】経験群では接触期中にパンチを引き戻す筋群の活動が強く認められたが,未経験群ではパンチ推進中から強く活動する傾向が認められた.連打所要時間及び接触時間に有意差は認められなかったものの,経験群でより長い時間を要したことは仮説に沿わなかった.バッグまでの距離の差,未経験者はパンチを引き戻す筋群をパンチ推進中から活動させているため連打所要時間及び接触時間が短くなるなど想定できるが,今回の解析では明らかにすることはできない.もちろんパンチ力の大きさとの関連性も考慮すべきであると考える.【理学療法学研究としての意義】他のスポーツに比べ,運動学的見地からボクシング競技の動作を分析した報告は極めて少ない.理学療法士の視点からパンチ動作の分析を行い,介入することで,より客観的な評価とトレーニング効果を得ることが期待される.その基礎的な情報として本研究は必要であると考える.
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2009 (0), A3O3032-A3O3032, 2010
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680544025728
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- NII Article ID
- 130004581745
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed