洗髪動作における僧帽筋の筋活動について

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タイトル別名
  • 速い肘関節屈伸運動による洗髪動作における検討

抄録

【目的】<BR>臨床にて、腱板断裂を受傷し肩関節鏡視下腱板縫合術を施行された症例の理学療法を経験した。本症例は理学療法により肩関節の関節可動域や腱板筋の筋力は改善した。しかし洗髪動作時に肩甲骨の過剰な外転、挙上、前傾がみられ、僧帽筋上部線維や肩甲挙筋の過活動と僧帽筋下部線維に機能不全を認め、肘関節屈伸運動の速度が低下し、洗髪動作の実用性に問題が残った。症例のニーズである洗髪動作の実用性向上のためには、肘関節屈伸運動の速度を上げる必要があった。そのため肩甲骨の過剰な外転、挙上、前傾に対して、その安定化に作用するとされる僧帽筋下部線維に対し選択的に治療を実施した結果、速い速度で肘関節屈伸運動が可能となり、洗髪動作の実用性が向上した。この経験から我々は、先行研究にて洗髪動作模倣課題遂行時の僧帽筋各線維の筋活動について、肘関節屈伸運動速度を40・80・120・160回/分と変化させ、表面筋電図を用いて検討した。今回、より日常生活場面の洗髪動作に必要と考えられる速い速度での洗髪動作模倣課題中の僧帽筋各線維の筋活動を明確にする目的で、先行研究と同じ肢位で肘関節屈伸運動速度を200回/分に変化させ、洗髪動作模倣課題中の僧帽筋各線維の筋電図を測定した。その結果、僧帽筋下部線維の筋活動で先行研究とは異なる傾向を得たので、知見を踏まえ報告する。<BR>【方法】<BR>対象は整形外科・神経学的に問題のない健常男性7名で、測定肢位は両足底を接地させた端座位とした。そして測定側上肢の肩関節を屈曲110度、水平屈曲45度にて肘頭部に設置した台を指標にこの肢位を保持させ、肘関節の屈伸運動を実施した。この肘関節屈伸運動においては、中指が後頭隆起から頭頂までの範囲で往復する運動を一回とした。この時の運動速度は、メトロノーム(SEIKO社製)を用いて1分間に200回の速度にした。そして課題遂行時に電計ニューロパック(日本光電社製)を用い、僧帽筋上部・中部・下部線維、上腕三頭筋長頭の筋電図を測定した。測定時間は10秒間とし、3回測定した。また課題遂行中の肩甲骨の動きと肘関節運動をビデオカメラにて撮影し分析をおこなった。<BR>【説明と同意】<BR>本実験ではヘルシンキ宣言を鑑み、あらかじめ説明された本実験の概要と侵襲、および公表の有無と形式について同意の得られた被験者を対象に実施した。<BR>【結果】<BR>筋電図測定の結果、僧帽筋上部・中部線維は課題遂行時に持続的な筋活動を認めた。また僧帽筋下部線維の筋活動は、課題遂行時に肘関節の屈伸運動に対応した振幅の律動的な変化を認めた。そして上腕三頭筋長頭の筋活動は、肘関節伸展運動時に筋活動の増加を認めた。ビデオカメラでの画像分析より、本課題遂行中に肩甲骨は肘関節屈伸運動に伴って胸郭上を上外側および下内側へ律動的に動いていた。<BR>【考察】<BR>先行研究にて僧帽筋下部線維は、肘関節の屈伸運動速度40・80・120・160回/分において持続的な筋活動を示し、肘関節屈伸運動速度の増加に伴い筋活動も増加傾向を認めた。また課題遂行中の肩甲骨は、著明な動きを認めなかった。そのため僧帽筋下部線維は、課題遂行時の肩関節肢位保持に際して、肩甲骨に生じる前傾方向の力学的モーメントに対して常に制動に関与していたと考えた。また課題である肘関節屈伸速度の増加に伴い生じる肩甲骨の不安定性に対して、肩甲骨上方回旋位での下制・内転作用として肩甲骨の安定化に関与し筋活動を漸増させていたと考えた。しかし本研究結果における僧帽筋下部線維の筋活動は、課題である200回/分の肘関節屈伸運動に対応して、筋活動の振幅に律動的な変化を認めた。また本課題中の肩甲骨は、200回/分の肘関節屈伸運動に伴って、上外側および下内側への律動的な運動を認めた。このことから今回の課題遂行時の肩甲骨は、胸郭上での固定だけではなく、上外側および下内側へ律動的に動くことにより肘関節の速い屈伸運動に対応し、僧帽筋下部線維はその肩甲骨の動きを保障するために律動的な筋活動が必要になると考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>洗髪動作は肩関節を保持し、肘関節の屈伸運動を行う日常生活の中で特異的な動作であると考える。洗髪動作の遂行パターンには多様性があるが、頭髪・頭皮の洗浄のために速い肘関節屈伸運動が日常的に繰り返される。今回の研究結果から、200回/分の肘関節屈伸運動を伴った洗髪動作では、動作中の肩甲骨の上外側および下内側への律動的な動きに対する僧帽筋下部線維の協調的な活動が必要になると考えられる。このため、肩甲胸郭関節に障害を有する患者の洗髪動作に対する評価・治療をおこなう際には、より日常生活場面での洗髪動作速度を考慮して実施する必要があると考えられる。特に200回/分での肘関節屈伸運動における肩甲骨と僧帽筋下部線維との関係性に着眼する事の必要性が示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A3O2056-A3O2056, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680544119936
  • NII論文ID
    130004581685
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a3o2056.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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