下肢他動的関節圧縮がヒラメ筋H波に与える影響

DOI
  • 徳田 裕
    富山医療福祉専門学校理学療法学科 富山県理学療法士会学術局専門領域研究部物理療法研究会
  • 辻 政彦
    富山医療福祉専門学校理学療法学科

抄録

【目的】<BR> 固有受容性神経筋促通手技(PNF)における他動的関節圧縮は,関節内の受容器を刺激し筋収縮力を高め運動機能を改善するために用いられる.柳沢らの関節圧縮による研究では,背臥位で下肢への他動的関節圧縮を行い,圧縮開放後のヒラメ筋H波は非圧縮時に比べ振幅の増大をもたらすとしている.本研究の目的は,下肢への他動的関節圧縮時の脊髄運動ニューロンの興奮性をヒラメ筋H波を指標とし検討することとした. <BR>【方法】<BR> 対象は神経学的に何ら症状を呈さない健常成人15人(男性8名,女性7名,年齢21±4.3歳)とした.<BR> H波測定には誘発電位・筋電図検査装置Neuropack ΣMEB5504を用いた.測定筋は右側ヒラメ筋とし,十分な前処置を行いインピーダンスを5KΩ以下とした.H波の導出は筋腹腱導出法により行い,電極には銀-塩化銀製の表面電極を使用し測定した.電気刺激は脛骨神経を膝窩部にて経皮的にM波が出現する強度で刺激した.波形は16回の平均加算処理を行った波形の振幅を測定した.肢位は腹臥位で,頭部,体幹,股関節中間位,膝関節伸展位,足関節中間位とし,肩甲帯・骨盤帯をベッドにベルトで固定し,垂直に設置した板に足底面を全面接地させ,足底部から右下肢長軸方向にほぼ垂直な力を加え,力が各関節に可及的直線に加わるように配慮し,安静時,5Kg圧縮時,10Kg圧縮時,15Kg圧縮時のH波を測定した.圧縮強度については測定者と被検者に二重盲検定化を行うとともに無作為に行い,各測定間には5分の休息を入れ疲労や開放直後の影響に配慮した.なお,室温約24度に環境設定をした検査室にて覚醒に影響されないように測定中には数字を数えさせた.<BR> 統計処理は安静時と各圧縮強度(5,10,15Kg)間での比較に多重比較検定(Tukey-Kramer法)を用い,危険率5%未満を有意水準とした.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者に研究の趣旨と内容を説明して同意を得た.データはコンピュータで処理し研究の目的以外には使用しないこと及び情報の漏洩に配慮した.<BR>【結果】<BR> 安静時のヒラメ筋H波振幅は2.8±1.9mV,5Kg圧縮時3.7±2.0mV,10Kg圧縮時4.1±2.2mV,15Kg圧縮時4.8±1.9mVで多重比較検定の結果,安静時に比べ15Kg圧縮時において有意に高値を認めた(p<0.05).<BR>【考察】<BR> 本研究では足底部からの下肢長軸への他動的な関節圧縮により圧縮力に比例してH波振幅が増加傾向を示し,圧縮力15KgでH波振幅の有意な増大を認めた.これは足底面から長軸方向への他動的な関節圧縮により関節受容器であるルフィニ終末,また足底接触という点を考慮すれば,体性感覚受容器であるメルケル盤,ルフィニ終末も刺激してII群線維を介して下腿三頭筋への脊髄運動ニューロンに対して促通が生じたことが要因として考えられた. 5,10,15kgにおける圧縮強度の中で最も促通として効果的な圧縮強度は約15Kgであることが示唆され,この強度を徒手的に出力できるかがPNFの課題ではないかと考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 運動療法学におけるPNF等で用いられる下肢他動的関節圧縮は下腿三頭筋の脊髄運動ニューロンを促通する根拠になりうる研究であると考えられる.5Kg,10Kg,15Kgにおける関節圧縮強度の中では,約15Kg程度の関節圧縮力が脊髄運動ニューロンを効果的に促通でき,関節圧縮力が弱いと有効な固有受容器の促通にはなりにくいことが示唆された,

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A3O2025-A3O2025, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680544447488
  • NII論文ID
    130004581654
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a3o2025.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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