肩関節の疼痛によりサイドスロー投法は困難だがアンダースロー投法は可能であった投手について
この論文をさがす
説明
【はじめに】アンダースロー投法は肩関節への負担の少ない投法であるといわれており、肩関節に障害を抱えた投手が、オーバースローからアンダースローに投法を変更することで選手寿命を延長させたという事例もみられる。しかし、オーバースロー、サイドスロー、アンダースローの違いは主として体幹部の傾きの違いによるものであり、上肢の運動に本質的な差はないとの報告もみられ、肩関節の運動はオーバースローに類似しているといわれている。我々は今回アンダースロー投法では投球可能であるが、サイドスロー投法では肩関節の疼痛により投球が困難な投手に対し、アンダースロー投法とサイドスロー投法の肩関節の関節角度変化の差異を三次元動作解析装置で確認し疼痛発生要因について検討した。<BR>【対象と方法】対象は21歳の男性で、社会人軟式野球のクラブチームに所属する右投げアンダースロー投手である。本投手は、本来のアンダースロー投法に加え、サイドスロー投法の練習を行っていたところ肩関節に疼痛が出現した。その後もアンダースロー投法での登板は可能であるが、サイドスロー投法は疼痛により困難であった。今回、本投手に対しアンダースロー投法とサイドスロー投法の投球動作を三次元動作解析装置UM-CATII(ユニメック社製)を用いて6台のカメラで撮影し、二つの投法の投球動作中の肩関節の角度変化の差異を比較検討した。なお本投手に対しては事前に実験方法の説明を行い実験参加の同意を得たが、本研究の趣旨に関しては本人が意図的に動作を調整することを防ぐため実験終了後に説明した。また撮影前には十分にウォーミングアップを行ってもらった。撮影は実験室内にて行い、投手から3m前方の防球ネットに向かって全力投球してもらった。動作の分析方法は、疼痛が出現する相にあたるアクセラレーション期開始時点からリリース時点の両肩峰を結ぶ線と右上腕のなす角度、右肩峰と右上前腸骨棘を結ぶ線と右上腕のなす角度ならびに投球側への体幹の傾斜角度を計測した。<BR>【結果】アクセラレーション期開始時点からリリースにかけて、アンダースロー投法では体幹の傾斜角度が増大した。しかし両肩峰を結ぶ線と右上腕のなす角度、右肩峰と右上前腸骨棘を結ぶ線と右上腕のなす角度はアンダースロー投法、サイドスロー投法で類似した結果であった。<BR>【考察】今回の分析方法による結果では、肩関節の運動は投法の違いによる差異はないという報告を裏づける結果となった。一方、体幹の傾斜角度はアンダースロー投法では増大を認め、これが疼痛を出現させない要因の一つだと推察された。つまり、体幹が投球側の右側へ傾斜することにより、右広背筋など右体幹部の筋の張力は緩和する。これによりアンダースロー投法では肩甲骨の上方回旋が阻害され難くなり、肩甲上腕関節での過剰な挙上運動によるストレスを回避できるため疼痛が出現しないのではないかと考えた。<BR><BR>
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2007 (0), C0176-C0176, 2008
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680544490368
-
- NII論文ID
- 110006799733
-
- NII書誌ID
- AN10146032
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可