滑車を使用した股関節伸展運動における下肢筋活動について

DOI

抄録

【目的】<BR> 仰臥位における滑車と重錘を使用した股関節伸展運動(以下,足滑車運動)は,下肢筋群のトレーニングに有効と考えられている.しかし,足滑車運動における下肢筋活動の報告は見受けられない.今回,足滑車運動における下肢筋活動を表面筋電計にて測定し,重錘負荷量と股関節伸展方法を変更して調査し,有効な運動方法と効果について検討したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR> 対象は健常男性18名(平均年齢21.5±0.8歳)とした.表面筋電計はNORAXON社製MyoSystem1200を使用し,右側の大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,半腱様筋を対象とした.足滑車運動では,オーバーヘッドフレームを使用し天井部に滑車を固定し,対象者の右下腿遠位部にバンドを巻いてロープでつないだ.ロープの他端は滑車を介して重錘に接続した.運動方法は,仰臥位で右下肢を膝関節伸展位・股関節内外旋中間位で挙上させた状態から,滑車を介した重錘の重さに抗して足先を天井に向けたまま引き降ろす運動とした.下肢の引き降ろし方法は,股関節伸展0度・外転0度まで降ろす方法(A1),股関節伸展0度・外転20度まで降ろす方法(A2),股関節伸展10度・外転20度まで降ろす方法(A3)の3種類とし,引き降ろした状態を計測肢位とした.重錘負荷量は,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas F-1)を用い,仰臥位における右股関節伸展の最大等尺性筋力を測定し,測定値の30%(低負荷)と50%(高負荷)とした.低負荷と高負荷の重錘負荷量で3種類の足滑車運動を実施し,計測肢位にて5秒間保持させ,その中の安定した2秒間の筋電波形の積分値(IEMG)を求めた.各筋についてDanielsらの徒手筋力検査法の段階5の最大等尺性収縮で測定されたIEMGを100%として,各運動課題における各筋の筋活動を%IEMGとして導出した.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者に対し本研究について説明し同意を得た.また,当院の倫理委員会にて承認を受けた.<BR><BR>【結果】<BR> 各運動課題における各筋の筋活動を「下肢の引き降ろし方法・重錘負荷量・筋活動」の順で表記し,筋活動の高い順に以下に示す.<BR> 大殿筋ではA3高負荷36.0%,A2高負荷31.8%,A3低負荷20.6%,A2低負荷15.7%,A1高負荷13.5%,A1低負荷8.8%であった.<BR> 中殿筋ではA3高負荷44.2%,A2高負荷41.3%,A3低負荷33.1%,A2低負荷27.1%,A1高負荷21.8%,A1低負荷14.5%であった.<BR> 大腿筋膜張筋ではA3高負荷66.2%,A2高負荷58.5%,A3低負荷49.5%,A2低負荷40.2%,A1高負荷23.1%,A1低負荷12.2%であった.<BR> 半腱様筋ではA3高負荷33.9%,A2高負荷28.1%,A1高負荷26.8%,A3低負荷23.9%,A2低負荷20.1%,A1低負荷17.5%であった.<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果から足滑車運動での股関節伸展筋群と外転筋群の筋活動は,下肢の引き降ろし方法を股関節伸展のみより股関節外転を加えた方が大きく,さらに股関節を外転させながら伸展10度した方が大きくなることが分かった.これは,足先を上に向けたまま下肢を斜め外方に引き降ろすことにより股関節伸展・外転・内旋の複合運動となり,外転作用のある中殿筋・大腿筋膜張筋が働き,また伸展作用に加えて外転の補助動筋の作用もある大殿筋と内旋作用のある半腱様筋の働きが大きくなったためと推察された.<BR> Hettingerらは,筋力増強効果に対する閾値を最大筋力の30%以上であると報告している.今回の結果から足滑車運動では,股関節伸展のみで行った場合には股関節伸展筋群と外転筋群の筋活動が30%以下となり筋力強化としてはあまり期待できないと考えられた.しかし,股関節を外転させながら伸展して行い,股関節伸展筋群では高負荷以上,股関節外転筋群では低負荷以上に設定することでほぼ30%以上の筋活動が得られ,筋力強化が期待できると考えられた.<BR> 筋持久力強化では,一般に最大筋力の20~30%の負荷で筋疲労するまで行うのが効果的といわれている.今回20~30%の筋活動を示した運動結果より,足滑車運動では低負荷で股関節を外転させながら伸展して行うか,もしくは高負荷で股関節伸展のみで行い,さらに高頻度で実施することにより股関節伸展筋群・外転筋群の筋持久力強化が期待できると考えられた.<BR> 足滑車運動は,対象者の筋力に合わせて重錘負荷量を設定し目的に応じた運動方法をとることで,股関節伸展筋群・外転筋群の筋力強化および筋持久力強化として有効であると考えられた.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 滑車運動における下肢筋活動と筋力強化および筋持久力強化のための有効な運動方法の提示.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A3O1024-A3O1024, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680544503680
  • NII論文ID
    130004581605
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a3o1024.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ