重心動揺計を用いた総軌跡長と外周面積の捉え方の検討

  • 谷崎 祐典
    医療法人長久堂野村病院リハビリテーション科
  • 緒方 尚美
    医療法人長久堂野村病院リハビリテーション科
  • 菅野 正光
    医療法人長久堂野村病院リハビリテーション科
  • 野村 真哉
    医療法人長久堂野村病院リハビリテーション科

書誌事項

タイトル別名
  • 年代別、下肢・体幹運動前後の比較

説明

【目的】<BR>主に脳梗塞や骨折等の疾患に対し、重心動揺検査や下肢加重検査が診療報酬として認められている。これらは左右下肢加重比率、平衡機能、立位バランス等を評価している。これらの評価では総軌跡長、外周面積を指標として用いることが多く、これまでにも健常者や高齢者を対象に研究が行われている。しかし、総軌跡長や外周面積に対して統一された解釈は確立されておらず、総軌跡長、外周面積をバランスの指標としてどのように捉えるべきか結論は出ていない。本研究は、健常者を対象とし、年代別に体幹または下肢の運動を実施し、運動前後の変化を調べるとともに、総軌跡長や外周面積の解釈について検証したのでここに報告する。<BR>【方法】<BR>対象は女性26名(20代13名、平均年齢:25.1±3.78歳、50代13名、平均年齢:54.2±2.55歳)として、年代別各13名を体幹運動群、下肢運動群、各6~7名の4グループに分類した。計測機器は下肢加重計 G-620(アニマ社製)を用いサンプリング周波数は20Hzで30秒間計測した。各運動群それぞれに臨床でよく用いられる体幹筋群、下肢筋群への運動(約10分間)を5日間実施してもらい、運動前後で静止立位下肢加重・重心動揺検査を実施した。計測値は総軌跡長、外周面積を用い、解析は以下の3項目について行った。1)1日目運動前の計測値の平均値を年代別で比較。2)年代別の総軌跡長と外周面積の相関関係の有無。3)1日目の運動前後、5日目の運動前後の計測値、総軌跡長(運動後―運動前)、外周面積(運動後―運動前)を算出し、その結果より、4群に分類した。A群:総軌跡長・外周面積減少、B群:総軌跡長減少・外周面積増加、C群:総軌跡長増加・外周面積減少、D群:総軌跡長・外周面積増加の4群に分類し、年代別の運動による効果を検証した。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には研究についての説明を行い、書面にて同意を得たのち測定を実施した。<BR>【結果】<BR>1)1日目運動前の総軌跡長は50代:平均32.2cm、20代:平均27.14cmであった。外周面積は50代:平均1.38cm2、20代:平均0.98cm2であった。50代と20代を平均値で比較すると50代よりも20代の総軌跡長は短くなり、外周面積も小さくなった。2)総軌跡長と外周面積による相関係数は20代:rs=0.69で有意な相関関係が認められ、50代:rs=0.14で相関関係は認められなかった。3)群別の測定結果は、A群:1日目7名→5日目10名、B群:1日目5名→5日目7名、C群:1日目2名→5日目3名、D群:1日目12名→5日目6名であった。これらの結果より、総軌跡長、外周面積の減少した群は1日目より5日目で3名増加し、総軌跡長、外周面積の増加した群は6名減少した。<BR>【考察】<BR>本研究を行うにあたって、「50代より20代のほうが平均的に総軌跡長、外周面積ともに小さい」といった仮説を立てた。これは生理的背景として末梢および中枢機構の全体的な加齢現象が50歳頃から生じるとされているためである。結果より50代より20代の方が総軌跡長、外周面積ともに小さくなった。また、20代の総軌跡長と外周面積には相関関係が認められたが50代には認められなかった。50代の総軌跡長、外周面積を中心に解析結果を検証していくと、統一性は見られなかった。過去の文献より、加齢により身体能力は低下するが、能力低下の要因は多様となり、各人様々な戦略を用いて立位の安定性を図っているためと考えた。一方、これだけでは総軌跡長と外周面積が小さいほうが、立位姿勢が安定しているとは言い切れない。そこで下肢と体幹に分けそれぞれ運動を行ってもらった。その結果、運動前後の総軌跡長と外周面積の増減は様々なパターンをとり統一性は見られなかった。しかし、その中で各年代ともに体幹運動を行った群は1日目と5日目の運動前後の比較を行った結果、総軌跡長・外周面積とも減少を示す被験者が増えて、体幹の運動が立位姿勢の安定性向上に関与することが示唆された。今回の結果より、総軌跡長・外周面積ともに小さい方が動揺は少なく安定性は高いということが言えた。一方、総軌跡長が長くなり外周面積が小さくなる群、総軌跡長が短くなり外周面積が大きくなる群も存在し、この2つの群がどこに位置づけされ、どのように解釈してよいのか結論には至らなかった。本研究の結果から、立位姿勢の評価を行う際は左右下肢加重比率や重心動揺軌跡等の様々な要素を含め評価していくことでより明確な評価を行えると考える。今後は立位姿勢の指標を明確にするために引き続きサンプル数を増やし、より多くのデータの検討を行っていく必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>重心動揺計を用いた、静止立位における総軌跡長と外周面積の関係について一定の所見が得られた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A3O1006-A3O1006, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680544513920
  • NII論文ID
    130004581587
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a3o1006.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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