肩関節水平内転における小結節の臼蓋内進入について
説明
【目的】肩関節水平内転(以下,HA)は健常人でも可動域の大小の幅が大きい.HA可動域が180°前後あり最終可動域で痛みのない人もいれば,可動域がそれより少なく最終可動域で前方に痛みのある人もいる.今回,HA可動域が180°前後のものに対して臼蓋と骨頭の関係を調べ,可動域の少ないものとの比較を行い,可動域の制限因子について考察した.その結果から可動域増大の方法を考案したので併せて報告する.<BR>【方法】対象はHA可動域が180°前後の女性3名3肩年齢23.3±7.5(以下,A群),およびHA可動域が少なく,最終域で関節前方につまり感と痛みのある男性10名20肩年齢39.5±13(以下,B群)であった.対象者にはデータ採取の方法と研究内容を説明し承諾を得た.A群に対して上腕骨中間位でHA最終可動域を維持してもらい,肩甲骨を3方向から測定した.また,肩甲棘と上腕骨の角度(以下,SHA)も測定した.その平均角度をもとに晒し骨で再現し,臼蓋と骨頭の関係を観察した.その結果から小結節が臼蓋内に進入していることがわかったため,熊本大学医学部の解剖遺体1体左肩を用い,小結節の臼蓋内進入時における肩甲下筋健の反転状況を観察した.また,B群に対して小結節を臼蓋内に前方から押し込むように操作を加え,操作前後のHA可動域とSHAを測定した.<BR>【結果】A群のSHAは105.0±5.3°であり,晒し骨による再現で小結節が臼蓋内へ進入しており,小結節と骨頭の両方で臼蓋に接していた.解剖では後方・下方関節包,烏口上腕靭帯,肩甲下筋以外の肩周囲筋を切除し,HA運動を行った.HAを行うと小結節は小結節上部から斜めに進入し始め,小結節に押されて前上方関節唇は臼蓋側へ折れ曲がった.HAを続けると前上方関節唇を乗り越えると同時に肩甲下筋腱上部が反転した.さらにHAを続けると小結節全体が臼蓋内に入り,肩甲下筋腱下部も反転した.B群は操作前が,HA136.4±11.3°,SHA74.4±8.4°であった.HA60°くらいで骨頭前方を臼蓋方向へ押し込みながら水平内転すると軽いクリック音が生じた.操作後は,HA155.4±5.7°,SHA85.8±4.6°となり両者とも有意に増大した(p<0.01).また,最終域での関節前方の痛みが消失した.<BR>【考察】HA時は小結節上部から臼蓋内へ進入するが,小結節は上部が長軸に対して斜めになっており臼蓋に入りやすい形状となっている.肩甲下筋腱は上部から徐々に反転していくため,反転時の衝撃が少ないと考えられる.B群の操作前は,最終域で肩関節前方につまり感と痛みがあり,小結節が前方関節唇と衝突した状態であったと考えられる.操作中にクリック音が生じ,その後,可動域増大と痛みの消失がみられたことから,操作により小結節上部が前方関節唇を完全に乗り越えて臼蓋内に進入したものと考えられる.
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2008 (0), C3P3417-C3P3417, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680544526208
-
- NII論文ID
- 130004580954
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可