膝蓋骨骨折に対する段階的アプローチの検討

  • 井上 敦
    総合病院岡山協立病院リハビリテーション部
  • 森近 貴幸
    総合病院岡山協立病院リハビリテーション部

Description

【目的】骨折後の炎症の遷延化は長期間疼痛を伴う為、患者にとって避けたい問題であり、また理学療法を展開する上でも治療の阻害因子となる.炎症症状に対しどの時期、期間にどのようなアプローチが適切であるか、またどのタイミングで治療プログラムを移行するかなど臨床場面では判断に苦慮することがある.今回膝蓋骨骨折後に観血的固定術を施行した2例に対し、プログラム介入期間、移行時期によるROM、疼痛変化について検討し介入方法について考察したので以下に報告する.<BR>【対象と方法】膝蓋骨骨折を呈し観血的固定術(Zuggurtung法)を施行した2例で、骨折型は4partであった.炎症症状の変化、疼痛、ROMについて経時的変化とプログラムの変化を検討した.疼痛評価にはNumeric rating scale(以下NRS)を用い、介入時を10とした.症例Aには、下腿の下垂を利用した膝関節自動ROM練習、股・足関節トレーニング、特に軟部組織ダイレクトストレッチを実施した.症例Bでは疼痛の訴えが強く徒手的治療が困難であった為、膝関節自動ROM練習、股・足関節トレーニングを重点的に実施した.また本研究について本人に十分に説明し同意を得て実施した.<BR>【結果】症例Aでは発赤は持続したものの介入後6週で腫張・熱感は鎮静化し、膝蓋骨下端表層の疼痛はNRSで5、ROMは90度と大きな改善がみられ、膝蓋骨下部の疼痛は消失した.介入後2ヶ月では疼痛は2へと改善し、ROMも120度まで改善がみられた.症例Bでは膝蓋骨下端表層・下部の疼痛が強く、主に下腿下垂による膝関節自動ROM練習、股・足関節トレーニングを実施した.8週でも疼痛が持続しNRSは7、ROMも70度と大きな改善はみられなかったが、膝蓋骨下端の発赤・熱感は減少していたためセルフでの軟部組織ダイレクトストレッチを開始した.9週ではNRSは5と減少したため他動ROM練習を開始し、12週ではROMは110度、NRSは3であった.<BR>【考察】2例からの比較より、軟部組織に積極的にアプローチすることで炎症期間を短縮させられたと考える.炎症が長期に及んだ症例Bでは股・足関節トレーニング、自動ROM練習を中心に疼痛を誘発しにくいアプローチを行なった結果、過剰な防御性収縮を抑制できたため炎症改善後ではスムースなROMの改善が得られたと考える.炎症期の中でも疼痛が著明な時期、疼痛コントロール期に分けてアプローチすることでスムースなプログラムの移行が可能になると考えられた.疼痛が著明な時期には炎症鎮静化、循環改善を目的とした軟部組織へのアプローチが有効であり、疼痛コントロール期には積極的なROM練習が効果的であると示唆された.また、炎症症状に対しセラピストによる直接的アプローチが困難な場合にはセルフトリートメントも有効であると考えられた.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680544561408
  • NII Article ID
    130004580912
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.c3p3373.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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