脊髄損傷者の斜方トランスファーにおける上肢機能の分析

  • 藤井 利裕
    吉備高原医療リハビリテーションセンターリハビリテーション科
  • 武田 正則
    吉備高原医療リハビリテーションセンターリハビリテーション科

説明

【はじめに】脊髄損傷者のADLにおいてトランスファ-動作は基本的かつ重要な動作であり、その際上肢の担う役割は大きい。今回我々は斜方トランスファ-時における移動側上肢に求められる力の方向を知り、実際の練習に応用すべく力学的解析を試みたのでここに報告する。対象は当院入院中の慢性期脊髄損傷者で研究に際し同意が得られた12名である。損傷レベルはC 8からL 1の完全損傷である。<BR>【方法】被験者の左側に置かれた測定台への斜方トランスファ-を行った際に、左上肢及び臀部に負荷される力を測定した。測定台の高さは車椅子の座面と同じもので、移動速度は日常行われている個人の速度とした。測定装置はアニマ社製歩行分析用フォ-スプレ-トを使用し、測定台は上肢とは別に臀部も同期し測定させるため、別々のフォ-スプレ-ト上に設置した。移乗の際には前方、側方からビデオ撮影を行い床反力の結果を分析する際に役立てた。<BR>【結果及び考察】垂直成分の分析からは2つの動作パタ-ンがみられた。一つは比較的時間の長い成分が出現した後に臀部接地がみられた。これは全ての麻痺レベルに認められ、ゆっくりとバランスを調整しながら動作がなされていると考えられた。もう一つは短い成分が出現した後に急激な臀部接地がみられた。これは麻痺レベルの低いものにみられすばやい動作で行われていると考えられた。前後成分の分析からは2つの動作パタ-ンがみられた。一つは後方に出現した成分が前方へと移行しその後臀部接地がみられた。これは体幹を前方に傾斜させ、その後移動方向へのプッシュアップにより臀部挙上が行われ、臀部が下降してゆく際には重心を押し返し接地してゆくものと考えられた。初動時重心も予め前方に移動させていることが確認されている。もう一つは、前方への成分が出現、そしてその後もう一つ同じものが出現し臀部接地がみられた。最初の支持は臀部挙上の際、前方への体幹の倒れ込みを防ぐための制動が働きつつ体幹挙上が開始され、次の支持は臀部が下降してゆく際に前方に移動した重心を押し返すものと考えられた。左右成分については、右方向への成分が出現し、その後臀部接地がみられ左方向への成分へと移行したパタ-ンが多くみられた。これは体幹を左側に傾斜させ移動反体側へ押し出すことより臀部を挙上させ、そして臀部接地後には体幹の倒れ込みを防ぐため移動方向へと上肢の制動を働かせているものと考えられた。初動時重心を予め左側に移していたことも確認されている。<BR>【まとめ】移動側上肢の働きには、移動直前に体幹を移動側へ傾け臀部を挙上させているものと、前方への倒れ込みを制動しながら臀部を挙上させているものがある。そして臀部接地前後には体幹の倒れ込みを制動している特徴がみられた。これを今後トランスファ-練習の際の指標と考え患者に指導してゆきたい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2006 (0), B0149-B0149, 2007

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680544718080
  • NII論文ID
    130005013701
  • DOI
    10.14900/cjpt.2006.0.b0149.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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