体幹と下肢の運動連鎖からみた変形性膝関節症の椅子からの立ち上がり動作の分析
説明
【目的】内側型変形性膝関節症(膝OA)の臨床症状の1つとして,椅子からの立ち上がり動作(STS)の困難および疼痛がある.理学療法の実践においては病態を引き起こした原因となる機能障害の部位を発見し,アプローチすることが臨床症状の改善を得るためには重要である.今回は,膝OAの重症度におけるSTSの運動学を明らかにし,胸部-骨盤-大腿の運動連鎖の観点からの考察を基に,膝OAの発症・進行に関与する機能障害の一因を明らかにすることを目的として研究を行い,幾つかの知見を得たので報告する.<BR>【方法】被験者は片側性または両側性の膝OAと診断された女性17名(64.7±8.0歳)であった.さらに日常生活で膝関節痛を有さない女性16名(61.6±7.5歳)を対照群として加えた.本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の開始にあたり当該施設の倫理委員会の承認を得た.また,被験者に研究の意義,目的について十分に説明し,同意を得た後に実施した.膝OAの重症度は膝関節レントゲン前後像(医師の指示下により当該施設の放射線技師が撮影)よるKellgren-Lawrence分類を用いた.課題動作は座面高が下腿長の高さの椅子からのSTSとした.運動学的データの測定では,被験者の左右肩峰,腸骨稜上端,股関節,膝関節,外果,第5中足骨骨頭にマーカーを貼付し,3次元動作解析システムKinema Tracer(キッセイコムテック社製)を用いて60 flame/sにて画像を記録した.その画像から臨床歩行分析研究会の推奨する推定式にて関節中心点座標と身体重心座標(COM)を算出し,3次元座標データから身体体節角度を求めた.データ解析は動作開始から体幹最大前屈までの胸部および骨盤前屈角度変化量,体幹最大前屈時の股関節外転角度を算出した.<BR>【結果】膝OA群のKellgren-Lawrence分類ではgrade II: 10名(II群),grade III: 7名(III群)であった.対照群と膝OA群のII群,III群とを一元配置分散分析にて比較した.その結果,胸部と骨盤の角度変化量は共に対照群に比し,II群およびIII群とも有意に高値を示した.さらに股関節外転角度は対照群およびII群に比し,III群が有意に高値を示した.<BR>【考察およびまとめ】対照群は胸部-骨盤-大腿の適切な連鎖機能を発揮し,骨盤(股関節)を有効に利用した体幹前屈運動を行なっているのに対し,膝OAのII群,III群とも胸部-骨盤の連鎖機能が破綻した体幹前屈動作,さらにIII群では骨盤-大腿の連鎖機能も破綻していると示唆された.このため,胸部-骨盤-大腿の連鎖機能が低下し,股関節機能を有効に利用した体幹前屈運動が困難となり,結果として胸部の補償による体幹前屈運動を行い,加えて膝関節を優位に使用したSTSを行なっていると推察された.これらのことから膝OAの理学療法では,胸部-骨盤-大腿の適切な連鎖機能を高め,股関節を有効に利用できる機能を発揮させることが,その発症と進行の予防につながると期待される.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), C3P2423-C3P2423, 2009
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680544879232
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- NII論文ID
- 130004580820
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可