車いすバスケットボール選手の加速能力に関する動作学的研究

安田 孝志, 淵本 隆文, 砂川 勇

doi:10.14900/cjpt.2007.0.a0202.0

【目的】近年パフォーマンスの向上を目的とした動作学的分析が多くのスポーツで行われている。しかし、車いすバスケットボールにおける動作学的研究は極めて少ないため、身体能力を最大に発揮している者や、発揮するために具体的な指示のできる者が少ないと思われる。そこで本研究では、加速能力に関する動作学的研究を行い、効率よく加速するメカニズムを明らかにしようとした。<BR>【方法】被験者はJWBF(Japan Wheelchair Basketball Federation）所属の障害者4名とGBP(General Barrier-free Produce）所属の学生4名の計8名の成人男性(年齢26.1±7.3歳、身長172.3±6.2cm、体重67.6±11.5kg)である。車いすの加速能力を測定するため被験者に、静止した状態から、ランプの合図でスタートさせ15m先まで全力で走らせた。スタート地点から5mまでを固定したビデオカメラで撮影し、スタート地点から15mまでを別のカメラでパンニング撮影し所要時間を測定した。ビデオカメラは2台とも毎秒60コマで撮影した。スタート時の手の位置はハンドリムの真上からとし、2回実施させた。被験者の身体にランドマークをつけ、動作分析を容易にした。Frame-DiasIIV3.1(DKH社製)を使用し動作解析を行うとともに、身体が動き出した時点から0.5m、1m、5m地点を通過するまでの時間を測定した。体力測定として、握力、肩関節の水平屈曲、水平伸展力、肘関節の屈曲、伸展力を測定した。統計処理は、Pearsonの相関係数にて検討し、有意水準を5%未満とした。<BR>【結果】5m通過時間は平均2.57±0.08sであった。車いすが動きだすまでの時間は平均0.21±0.12s（0.03～0.42s）、車いすが動き出してから0.5mまでの時間は平均0.69±0.12s（0.53～0.87s）、0.5mから1mまでの時間は平均0.26±0.04s（0.19～0.31s)であった。車いすが動きだすまでの時間と、車いすが動き出してから0.5mまでの時間との間には有意な負の相関関係が認められた(r=0.902、p<0.01)。体力測定の結果と各地点までの時間との間に有意な相関関係は認められなかった。車いすの速度は、ハンドリムをプッシュする前の体幹前傾時に減速し、ハンドリムをプッシュしている間は加速し、プッシュ後に体幹を起こす時にさらに加速するという変化を示した。<BR>【考察】静止状態から車いすが動くまでの時間と、車いすが動いてから0.5m地点に到達するまでの時間との間に見られた負の相関関係は、動作の準備時間を長くするとその後の動作速度が高まることを示している。車いすの場合、体幹をまず前傾させ、その後車輪を回すことによって、より強い力で、しかもより大きな回転角度の間に車輪を加速できると考えられる。したがって、スタートダッシュにおいてはハンドリムをプッシュする前に、いかに素早く体幹を前傾させられるかが重要であると考えられる。<BR>

車いすバスケットボール選手の加速能力に関する動作学的研究

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