下肢リンパ浮腫が歩行能力に与える影響

DOI
  • 満田 恵
    静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科
  • 辻 哲也
    慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室
  • 田沼 明
    静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科
  • 増田 芳之
    静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科
  • 岡山 太郎
    静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科
  • 石井 健
    静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科
  • 田尻 寿子
    静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科
  • 加藤 るみ子
    静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科
  • 神田 亨
    静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科

抄録

【目的】 <BR> リンパ浮腫の発症は、癌治療後の患者のQOLに大きく影響するといわれる。リンパ浮腫の治療を扱う医療機関は未だ不足しているのが現状であり、医療従事者にとっても認知度は低いといえるであろう。本研究の目的は、婦人科癌骨盤内リンパ節郭清術後の下肢リンパ浮腫が、歩行能力へ与える影響を考察することである。<BR>【対象】<BR> 婦人科癌に罹患しリンパ節郭清を伴う開腹術を施行後、腹部膨満感などの腹部症状や運動麻痺などの神経症状のないリンパ浮腫発症患者(以下浮腫あり群)10名(平均年齢57.1±15.0歳)を対象とした。また同条件にて、現在リンパ浮腫を発症していない患者(以下浮腫なし群)10名(平均年齢52.7±12.2歳)を対照とした。年齢では有意な差はみられなかった。<BR>【方法】<BR> 各群に対し、呼吸機能検査、体組成計、膝関節屈曲および伸展の関節可動域(ROM)およびShuttleWalkingTest(SWT)の評価を行った。呼吸機能検査に関しては、%VCおよびFEV1.0%を測定した。体組成計では身長、体重、体脂肪率、体水分率(体水分量/体重)、BMIを測定した。SWTでは総歩行距離、Borg scaleを用いた下肢疲労感および呼吸困難感、運動前後の血圧、心拍数、経皮的動脈血酸素飽和度を測定した。尚、今回の対象者には説明および同意を得た。<BR>【結果】<BR> 呼吸機能検査では各群で有意な差はみられなかった。体組成計では体重、体脂肪率およびBMIでは有意な差はみられなかった。ROMは有意な差はみられなかった。SWTの平均総歩行距離は浮腫なし群で343.6±97.3m、浮腫あり群で285.0±123.4mとなり、浮腫なし群で歩行距離が長い傾向がみられた。下肢疲労感を示すBorg scaleでは、開始前の浮腫あり群では9~13、浮腫なし群では7~13に分布し両者の間に有意な差はみられなかった。一方終了時の浮腫あり群では13~18、浮腫なし群では10~13に分布しており、浮腫あり群において有意に疲労感が強かった(マン・ホイットニ検定、p<0.05)。心肺機能面では有意な差はみられなかった。<BR>【考察】<BR> 今回の結果によりリンパ浮腫を発症している患者では、歩行時に下肢の易疲労性を認め、歩行時の持久力が減少していることがわかった。その原因として、下肢へのリンパ液貯留により、1.0~2.0kgの重錘を負荷しているのと同等の状態であることが推測される。従って、活動量の多い若年層や社会復帰を果たす患者においては、単にコスメティックな理由だけではなく、歩行能力の維持・向上を目的に、リンパ浮腫の予防や軽減のための積極的なケアが望まれる。リンパドレナ ージや圧迫療法だけではなく、運動療法なども併せた効果的な治療アプローチが行えるよう、理学療法士として医療の現場だけではなく一般にもその知識を広めていく必要があると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2006 (0), D0189-D0189, 2007

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680545032320
  • NII論文ID
    130005014205
  • DOI
    10.14900/cjpt.2006.0.d0189.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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