認知運動療法を実施した小脳出血後遺症の一症例

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【はじめに】近年,小脳は知覚探索,注意,運動イメージなどの情報処理に関与する認知器官であることを数多くの神経生理学研究によって明らかにされている.また,Perfettiは小脳疾患の治療において運動コントロール時の認知過程を活性化することが回復に有効であると提言している.今回,我々は発症から約5年を経過した小脳出血後遺症患者に対して,認知運動療法の概念に基づく認知過程を活性化する治療を施行したところ,約6ヶ月間の治療介入により良好な経過を得たので報告する.<BR>【症例紹介】症例は51歳の女性である.平成13年12月に左小脳出血を発症し,平成18年11月より当院外来通院が開始となった.画像所見では左小脳半球,左下小脳脚に異常を認めた.四肢のBr-stageは3程度(左>右)であり,感覚は鈍麻レベル(左>右)であった.体幹は他動運動開始直後から全身に筋緊張の亢進や振戦が出現し,四肢においても筋緊張の亢進や振戦,疼痛が出現し関節可動域の制限を認めた.また,体幹運動において「膝が動いている」など運動関節部位の選択に問題を認め,さらに体幹軽度屈曲位にも関わらず「肩が膝より前にある」など身体部位間の関係性の認識に問題を認めた.下肢は関節部位間の関係性の認識に問題を認めた.起き上がり・座位保持は介助を要し,立位保持は平行棒内にて約2分程度可能,歩行は困難であった.<BR>【治療内容および経過】本症例の異常要素を小脳の認知機能に関する認知過程の変質から捉え治療を立案した.まず,座位保持能力の獲得を目標に,体幹運動に伴う関節覚を用いて,体幹を基準とした体幹の運動・位置を認識する認知問題を立案し施行した.治療内容は,どこの関節部位が動いているか,どの程度が動いているかを認識する問題から開始した.経過に伴い,関節覚と共に重心偏位の認識や他身体部位との関係性の認識など各々のモダリティーを関連させるよう問題を移行した.治療介入3ヵ月後,四肢体幹において他動運動時の筋緊張の亢進や振戦の出現が減少し,関節可動域の向上を認めた.また,起き上がりは一部介助レベル,座位保持は15分以上可能,立位保持は平行棒内にて15分以上可能,歩行は平行棒内にて一部介助レベルとなった.座位保持獲得後,下肢の振戦を自制し運動を行うことを目標に,膝関節を基準とした下肢の運動・位置を認識する認知問題を立案し施行した.治療内容は,膝関節がどの程度動いているかを認識する問題から開始し,膝関節と足関節との関係性,反対側の関節部位との関係性の認識に移行した.また,他動運動から自動介助運動へと移行させた.それから3ヵ月後,身体機能面は顕著な改善を認めなかったが,起き上がりと歩行は監視レベルに改善した.<BR>【考察】今回,小脳機能に関する様々な知見に基づき,本症例における異常要素を認知過程の変質から捉え,自身の身体(体性感覚)を介する認知問題を施行した.その結果,身体機能をはじめとして,基本動作や歩行能力の向上が可能になることが強く示唆された.

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