運動習慣のある地域在住者の年代別の運動機能と加齢変化

  • 椿 淳裕
    新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科
  • 久保 雅義
    新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科
  • 小林 量作
    新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科
  • 地神 裕史
    新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科
  • 高橋 榮明
    新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科

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説明

【目的】筋の機能には,力やスピードの発揮などの側面があり,日常生活における種々の活動などの複合した運動への関与も大きいが,加齢によりこの機能は変化する.筋機能が加齢とともにいかに変化するかについては多くの報告があり,その評価指標として筋パワーが優れているとされるが,身体能力にどの程度関与するかは明らかではない.本研究の目的は,筋パワーと他の筋機能および身体能力の評価指標とを比較すること,身体能力おける筋パワーの関与の程度を示すことである.<BR>【方法】新潟市およびその近隣に在住し,運動を目的に体育館を利用している日常生活に支障のない成人男女304名(男性212名,女性192名)を対象とした.本研究に関するポスターを体育館に掲示し,様々な年齢層から参加者を募った.筋機能の評価として握力(GS)および等尺性膝関節伸展筋力(IKET)を測定し,ポータブル床反力計を使用し,ジャンプ動作における下肢筋力(Fmax)および筋パワー(Pmax)を算出した.また身体能力の評価として,timed up and go test(TUG)およびchair-rise test(CRT)における所要時間を計測した.各項目の年代ごとの平均値を算出し,年代間の差を一元配置分散分析により比較した.またピアソンの相関係数により,男女各々で年齢と各評価指標との相関関係の強さを求めた.さらに重回帰分析によりTUGおよびCRTに影響する因子を検索した.統計学的な有意水準はp<0.05 とした.<BR>【説明と同意】本研究は,新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て行った.対象者全員に本研究計画の説明を行い,書面による同意を得た. <BR>【結果】80歳代が3名と少なく,年齢群を構成できないことから解析対象から除外した.その結果,解析の対象となったものは301名(男性210名,女性191名)であった.各項目を年代別に比較した結果,年代が高くなるに従いGS,IKES,Fmax,Pmaxは低下し,CRT,TUGは延長しており,いずれの測定項目においても年代間で有意な差を認めた(p<0.01).年齢との相関係数rは,男性でGS -0.52,IKES -0.64, CRT 0.44,TUG 0.58, Fmax -0.62,Pmax -0.82であり,いずれも有意であった(p<0.01).女性においても,GS -0.50,IKES -0.53,CRT 0.30,TUG 0.44,Fmax -0.46,Pmax -0.83であり,いずれも有意であった(p<0.01).各年代でのPmaxの平均値は,男女ともに20歳代が最も高かった.男性において70歳代のPmaxは20歳代の53.5%であった.また女性の70歳代は20歳代の53.2%であった.TUGおよびCRTを従属変数として重回帰分析を行ったところ,TUGには男女ともにPmaxとIKETの関与が示され,モデル内の独立変数の効果の大きさを示す標準偏回帰係数は,PmaxがIKETよりも大きかった.男性のCRTにはPmaxとIKETの関与が示され,標準偏回帰係数はPmaxがIKETよりも大きかった.女性のCRTには独立変数としてIKETのみが採用された.<BR>【考察】年代が上がることに伴いGS,IKET,Fmax,Pmaxは低下し,TUGおよびCRTは延長していた.また年齢との相関において,GS,IKET,Fmax,Pmaxは有意な負の相関を,TUGおよびCRTは有意な正の相関関係にあった.これらから,加齢により筋機能は低下し,運動に要する時間は延長することが確認された.また,男女ともに年齢との相関はPmaxが最も強く,70歳代では20歳代に比べ男女とも約50%程度まで低下することが明らかとなった.これらからPmaxは筋機能の加齢変化を反映する指標として有用であることが示された.またPmaxはTUGおよびCRTへの関与が大きいことが明らかとなった.パワーは力と速度の積で求められることから,Pmaxは筋力のみでなく運動の速度の変化も含めて評価できる指標であると言える.<BR>【理学療法学研究としての意義】筋機能の加齢変化を捉えるには,筋パワーの評価が有効と言える.また筋機能の改善を計る理学療法プログラムを立案するにあたり,筋力自体の改善に加え,運動速度を考慮した筋パワーの改善を目的とした方法が有効である可能性を示唆する.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P2019-A4P2019, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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