TKA術後の全身的姿勢コントロールアプローチに着眼した一症例

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抄録

【はじめに】当院では局所原因に対する治療に加え、全身的な姿勢コントロールに対する治療を重要視している.今回、人工膝関節全置換術(以下TKA)術後症例に対し、姿勢アライメント・全身的運動パターンに着眼しアプローチを行い、下肢荷重量改善や効率的な歩行能力の獲得を経験したので報告する.<BR>【症例紹介】60歳代女性.学童期に右膝負傷し長年経過で右膝内側壊死を起こし、1年前より右膝関節痛が出現、2007.11右TKA施行.既往歴は腹圧性尿失禁・過活動膀胱.<BR>【術前評価】屋内独歩可能、屋外歩行は不可(Timed Up&Go Test以下TUGT=28秒).歩容の特徴は右立脚期の膝関節外側動揺現象と体幹右側屈、骨盤後傾・体幹右回旋による左下肢振り出しを行ない非常に不安定であった.右膝伸展-20°、右膝外側角(以下FTA)=189°、右側下肢荷重率=33.6%と重心が左側に偏位していた.なお、報告に際し症例の同意を得ている.<BR>【治療経過】術翌日から全荷重にて理学療法開始.症状に応じて愛護的ROMex、立位・歩行練習を進めた.しかし、術後2週の時点で炎症症状の沈静化、疼痛の軽減、ROMの改善は認められたものの、歩行能力は歩行器歩行レベルで術側下肢支持性が乏しく両上肢で支持しなければ非術側下肢の振り出しは困難であった.術側下肢荷重率=32.3%で、身体機能と活動能力の回復に乖離がみうけられた.<BR>この要因を中枢部の不安定性から起こる非効率的運動パターンにあると考え、臥位での特徴的な姿勢(腹部筋緊張低下、股関節外旋)に着目し治療介入プログラムを再考.重力の影響が少ない臥位での治療に変更した.臥位にて腰背部支持基底面を拡大、腰椎―骨盤アライメントを調整、上肢・体幹の過剰努力を軽減した状態で、体幹の安定性と下肢の分離運動を促通した.<BR>術後約3週にはT杖歩行が可能となり、揃え型杖歩行から交互型へ、階段昇降も可能となった.術後4週には独歩可能.術後37日には屋外T杖歩行・屋内独歩(TUGT=13秒)を獲得、術側下肢荷重率=46.5%となり退院に至った.<BR>【考察】本症例は学童期からの疼痛経験により重心が非術側に偏位、術側下肢が免荷に近い状態で姿勢運動パターンを学習してきたと考えられる.下肢荷重と体幹筋活動の関係についてはいくつかの報告があり、本症例では下肢荷重量の少ない術側体幹筋群は長期的に機能低下を起こしていたと推測される.このような症例に対し、膝関節の疼痛軽減・関節機能の改善だけでは歩行・姿勢バランスの改善は困難であった.そこで、支持面からの情報量が多く、重力の影響が少ない臥位で姿勢緊張・アライメントの調整、腹斜筋群・股関節周囲筋群を中心とした筋再教育を行うことで、体幹中枢部での安定性と下肢末梢での運動性を軸とした効率的な運動パターンを獲得.重力下の立位・歩行においても代償運動の少ない効率的な運動パターンを獲得し歩行・姿勢バランスの改善に至ったと思われる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), C3P1467-C3P1467, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680545218048
  • NII論文ID
    130004580730
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.c3p1467.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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