理学療法学生へのマネジメント教育の経験

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抄録

【はじめに、目的】「マネジメント」は、一般に組織や部門の管理者が「ヒト・モノ・カネ・情報」などの資源をバランス良く、効率的に活用するために管理・監督・指導することであると言われている。よって管理者のみに関わる概念であると捉えられている。しかし近年「マネジメント」は医療および理学療法領域において管理者だけでなく組織や部門を支えるスタッフ個人レベルにも求められてきている。今回、4年制専門学校の教育管理論という科目で「臨床におけるマネジメント」というタイトルで講義を行った。これから社会に出ていく学年と臨床実習を迎える学年を対象に「マネジメント」という概念とスキルとしてコーチングの一部を紹介する機会を得た。講義後にアンケートを行い、学生の「マネジメント」への関心などを調査したので報告する。【方法】講義において、「マネジメント」という概念を伝えるにあたり、教育的視点で「マネジメント」の考え方を設定した。日本理学療法士協会の「理学療法士の職業倫理ガイドライン」とP.F.ドラッガー著『マネジメント‐基本と原則‐エッセンシャル版(ダイヤモンド社)』を参考にし、今回の講義においては「マネジメント」を「部門や組織において役割(期待)と責任を果たすために学び続けること、モチベーションを持ち続けること」と定義した。講義は「マネジメント」という概念などを話し、演習としてタイプ別コーチングを個人ワークとして行った。対象は講義参加した理学療法学科の学生64名(内訳:3年生30名4年生34名)であった。アンケートの内容は、講義前後でのマネジメントに対する関心、臨床におけるマネジメントの必要性、卒前および卒後教育でのマネジメントの必要性について5段階の順序尺度で評価した。学年ごとの差についてはχ2検定を行った【倫理的配慮、説明と同意】対象者ならび学校に対して本研究に対する説明を行い、同意を得た上でアンケートを実施した。またアンケートは対象者に不利益にならないよう匿名性とし個人情報に配慮をした。【結果】講義前のマネジメントにおける関心については、全体の72.9%は関心がない(学年別:3年生80%、4年生64.7%)と回答した。講義後は、96.9%(学年別では3年生93.3%、4年生100%)が関心を示す結果となった。臨床場面におけるマネジメントの必要性では、93.8%(学年別:3年生90.0%、4年生97.1%)が必要と回答し、その理由として、「医療現場では協調性やコミュニケーションが大切であること」や「診療に役に立つことができる」、「専門職としてのキャリア設計に生かせる」等が複数回答として挙がった。卒前教育におけるマネジメントの必要性については、93.8%(学年別:3年生93.3%、4年生94.1%)が必要と感じ、必要としたい教育プログラムとしてコミュニケーションスキル、問題解決法が多い回答となった。卒後教育におけるマネジメントの必要性については92.2%(学年別:3年生86.7%、4年生97.1%)が必要と示し、教育プログラムとしては卒前教育同様に、コミュニケーションスキルや問題解決法に多く挙げられた。またその理由としては、「チーム医療では必要である」、「すぐには身につけられることではないため卒後も継続して学び続ける必要がある」、「後輩育成に必要である」とする回答が複数あった。全ての質問項目とも学年ごとの有意差は認められなかった。【考察】学年ごとの統計学的有意差は認められなかったが、4年生は総合臨床実習後で就職を控えていることもあり、卒前のみならず卒後教育においても「マネジメント」に関する教育の必要性の意見、3年生では「マネジメント」や「コーチング」が身近なものに感じられ、これから臨む実習現場でも活用していきたいとする感想が全体的に多く見られた。今回の一回の講義を通して「マネジメント」について多くの学生から関心を示す結果が概ね得られたと考える。また、改訂された新人教育プログラムでは、理学療法における人材育成講座の中にマネジメントスキルとして有用されている「コーチングとティーチング」が新テーマとして構成されている。これらのことから「マネジメント」の概念や「マネジメントスキル」を卒前教育の一環として学習しておくことは、卒後に社会・組織・部門の中で、自己学習やモチベーションなどを継続していく上で必要なものであり、「マネジメント教育」は管理者のみならず現場のスタッフ、これからスタッフとなっていく人たちにも求められていくと考える。【理学療法学研究としての意義】 「マネジメント」や「マネジメントスキル」は管理者のみならず、これから臨床現場でスタッフとなる人たちにも必要な考え方であり、キャリア形成における生涯学習での一助になるものと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100914-48100914, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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