電動の移動装置を用いた低年齢児における移動経験の可能性

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抄録

【はじめに】 生まれつき重い障がいを持った子どもは、抱っこでの生活が多く、自立移動することは少ない。この子ども達が将来自立(律)心や社会性を獲得するためには、学齢期前から自分で動く体験が重要であり、電動車いすはその手段の一つである。電動車いすの開発も年々進化し、様々な身体機能に対応できるものが増えているが、低年齢児への電動車いすの支給は非常に少ない状況にある。そこで2歳から9歳までの肢体不自由児を対象にした電動の移動装置(移動遊具)の開発が佐賀大学、佐賀工業技術センター、佐賀県にある障害児施設にて行われている。本研究では、より低年齢児における移動経験の可能性を探るため、健常児を対象として、この電動の移動遊具を用い移動遊具がおおよそ何歳で操作可能なのか、また発達と電動の移動装置操作能力の関係について検討した。【方法】 対象は、女児3名、男児7名の未就学児とした。平均月齢は51.4±16.1カ月、平均身長101.1±10.2cm、平均体重15.9±3.0kgであった。対象者は身体的・精神的既往疾患の認められないものとし、対象者はいずれも、電動車いすなどの電動移動装置に乗るのは本研究で初めての児とした。使用した移動遊具は、入力部分をボタンスイッチとし、前後左右4方向への駆動が可能である。対象者の属性を聞きとり調査した後、Kinder Infant Development Scale乳幼児発達スケール(KIDS)、Functional Independence Measure for Children 子どものための機能的自立度評価法 (WeeFIM)、Powered Mobility Program(PMP)を評価した。PMPとは、1996年にFurumasuらによって提唱された電動車いすの操作能力を点数化する評価方法である。統計処理はPMPと各評価項目について相関を分析した。なお解析には、SPSS17.0 J for windowsを用い統計的有意水準を5%とした。【説明と同意】 調査にあたっては、保護者と本人に本研究の研究目的・方法などについて十分な説明を行い、書面にて同意を得た。また、保護者同席のもと評価を実施した。【結果】 PMPはKIDS食事を除いた、月齢、KIDS、WeeFIMすべての項目に有意な相関が認められた。【考察】 KIDS、WeeFIM、はそれぞれ、年齢に準じた発達評価であることから、移動遊具の操作性は、年齢との関係が高いことが示唆された。また、先行研究より電動車いすを安全に操作出来る基準として、PMPにて75点以上を獲得することが示されている。本研究において、対象者のうち52カ月以上の全員が75点以上を獲得しており、おおよそ4歳(48カ月)程度で電動の移動遊具を安全に操作出来ることが示唆された。つまり、現在電動車いすの導入が望ましいとされている小学校高学年以上より、より低年齢児でも電動の移動遊具を用いて、移動経験を十分に得ることが出来る可能性が示唆された。本研究で使用した移動遊具の特徴として、操作部の配置や入力装置を容易に変更できる。また、障がいを持った子どもが普段使用している姿勢保持装置を台座にそのまま搭載し、使用することが可能なため、電動車いすの導入の前段階としてだけでなく、年齢にかかわらずポジショニングの困難な、より重度の子どもにも容易に移動経験の場を与えるものとして期待出来る。今後は、対象を障がいを持った子どもに広げ長期的な介入を行い、移動経験前後の発達について検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 乳幼児が電動の移動装置を使用することについて定量的に示した研究はほとんどなく、導入に関して理学療法士は経験に基づいて判断することが多い。本研究は、電動車いすを含めた電動の移動装置導入について今後データを収集し、移動経験と発達についての関連を明らかにするための基礎的データとして有用である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Bb1173-Bb1173, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547723520
  • NII論文ID
    130004692756
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.bb1173.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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