仙髄レベル二分脊椎症児の長下肢装具の必要性について

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抄録

【はじめに、目的】 二分脊椎症にとって実用歩行の獲得・維持は社会参加にとって重要である。脊髄運動最下髄節仙髄レベル(以下、Sレベル)では裸足での歩行が可能となり、一般的に装具が処方されない症例も多い。しかし、装具の処方が行われず、裸足で立位・歩行を行っていたSレベルの症例では膝関節では反張膝、外反膝、足部では踵足、内・外反変形、craw toeを呈している症例を多く経験する。これらに対し当院では、股関節、膝関節、足部への負担から生じる変形を予防する目的で、概ね骨成長が完了する頃までの期間、両側金属支柱付き長下肢装具(以下、KAFO)を処方している。また、KAFOは重量感や動作の制限などの点から歩行を阻害するという意見もあるが、KAFO装用することにより変形予防以外に歩行速度の向上が期待できると考えている。二分脊椎症の装具療法については未だ確立されておらず、施設により考えが異なることから、本研究ではKAFOを装用する有用性を明らかにする為に、KAFO装用時(以下、装用群)と裸足時(以下、裸足群)で歩行様式、歩行速度について比較検討した。【方法】 対象は、KAFOを装用したSレベルの小学生で足部に著明な変形がない4例を対象とした。内訳は男児1例、女児3例、平均年齢8.75歳、身長127.5±8.7cm、体重27.4±3.3kgである。歩行解析のパラメーターとして、歩行速度、歩幅を測定した。また立脚期の体幹傾斜角度(以下、傾斜角)と膝関節外反角度(以下、外反角)を測定した。歩行速度は16m屋内平地直線走行路(前後3mずつ助走路)とし、最大努力歩行で3回行い、10mに要する時間をデジタルストップウォッチで計測し平均を算出した。立脚期の傾斜角と外反角は、前方からデジタルビデオカメラで撮影し画像解析ソフトDARTFISH(DARTFISH社)を使用した。両側の肩峰、上前腸骨棘、膝蓋骨中央、足関節内・外果中央にマーカーを貼付した。傾斜角は肩峰、上前腸骨棘、床への垂線を結んだ線を計測し、外反角は上前腸骨棘、膝蓋骨中央、足関節内・外果中央を結ぶ線を計測した。スタート地点と撮影位置を定め、同下肢の3歩目を3回測定し平均を算出した。KAFOの足継手は底屈0°背屈15°までの制限付き継手を使用した。2群間の平均値の差を対応のあるt-検定を用いて検討した。なお有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本人とその家族には本研究の趣旨を十分に説明し、書面による同意を得た。【結果】 歩行速度は装用群1.6±0.4(m/s)、裸足群1.3±0.5(m/s)で、歩幅は装用群59.3±7.5cmで、裸足群49.9±7.8cmであり有意差は認められなかった。傾斜角は装用群6.8±5.4°、裸足群6.9±5.9°で、外反角は装用群3.9±3°、裸足群9.8±4.2°であり有意差は認められなかった。しかし歩行速度、歩幅ともに装用群で増加する傾向にあり、傾斜角、外反角ともに装用群で減少する傾向にあった。【考察】 KAFO装用群で歩行速度、歩幅とも増加し、傾斜角、knee in角共に減少した。歩行速度、歩幅に差が生じた要因として、蹴り出しによる下肢振り出しの推進力の違いが考えられる。Sレベルでは底屈筋の麻痺により裸足では蹴り出しが不十分となる。当院ではKAFO足継手を背屈0°から15°で制限することにより床からの反力を利用し蹴り出しを助け推進力を得ていると考えている。傾斜角、外反角共には裸足群で増加したが、股関節外旋筋力が弱いことから姿勢に影響を及ぼしていると考えられる。装具を装用することで、大腿、下腿、足部のアライメントが矯正され外反角が減少し、それに伴い傾斜角も減少したと考えられる。裸足で歩行を行うことにより、膝外反、足関節では外反変形が助長される恐れがあり疼痛を引き起こす原因ともなる。また、股関節内転・内旋に伴う股関節脱臼の可能性も考えられる。また、足関節背屈可動域が助長され膝蓋骨高位または反張膝となり大腿四頭筋の筋力が作用しなくなることも考えられる。一度伸張された靭帯は修復されず膝関節の支持性を低下させ、歩行速度の低下もしくは歩行不能となる可能性も考えられる。これらのことからKAFOを装用することで歩行速度の向上、体幹の安定性、股関節、膝関節、足部の保護に繋がると考えられ、KAFO装用の有用性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 二分脊椎症の装具療法に関しては、確立された指標はないが、Sレベルにおいて歩行様式を検討した結果、KAFO着用の有用性を示すことができ二分脊椎症の装具処方の目安になるのではないかと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Bb1172-Bb1172, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547724800
  • NII論文ID
    130004692755
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.bb1172.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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