脳性まひ児の理学療法ビデオの効果

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抄録

【はじめに、目的】 教育、研究において実際の理学療法を記録したビデオは頻繁に使用されている.しかし、そのビデオが視聴者に与える影響について明確に言及した報告はない.本研究の目的は、理学療法のビデオが視聴者に与える影響を検証することである.今回は、脳性まひ児(以下CP児)を対象とした理学療法ビデオ視聴前後に、学生が受けるイメージの変化を調査した.【方法】 A大学リハビリテーション学科理学療法専攻の3年生21名(男性7名、女性14名)を対象とし、質問紙により調査した.回答内容の偏りを考慮し、小児理学療法に関する科目履修を終え、CP児の理学療法を見学した経験がない学生を対象とした.調査は授業に支障のない夏休み期間中を利用して一斉に実施した.視聴対象となるビデオは、臨床経験17年の理学療法士による在宅でのCP児1症例の理学療法場面である.症例紹介;9歳女児、診断名は脳性まひ、GMFCSレベル5.非常に非対称な背臥位姿勢.体幹変形が著しく過度の前彎を伴った左凸側彎、胸郭前方突出.右体幹頸部短縮、頭部は常時過伸展右回旋位.筋緊張亢進時、右肩甲骨内転下方回旋、肩関節伸展内転外旋を強め上肢が体幹凹側背部へ侵入. 5歳時から腰背部、両股関節のope歴があり、骨盤と両股関節は比較的対称性を維持.呼吸はシーソーパターンを示し吸気時に胸郭陥没、下顎は後退し舌根沈下による気道閉塞が伺われた.ビデオ時間は合計25分間で、母親からの問診(6分間)、背臥位評価(8分)、背臥位での右方向への体重移動と支持面の獲得、上部体幹右回旋による右上肢への体重移動(4分)、クッション挿入による側臥位保持、姿勢評価(7分)から構成され、随所に理学療法士から母親への解説やアドバイスが含まれていた.理学療法開始前は筋緊張亢進時に辛そうな表情を見せていたが、側臥位への体位変換時には筋緊張は安定しており、側臥位保持の際の表情はリラックスしていた.下顎前突、頭部頚部体幹アライメント補正による気道確保から呼吸パターンは胸腹式呼吸となった.ビデオ視聴前後に質問紙によるイメージ調査を実施した.視聴前、視聴中に調査者からの説明は一切行っておらず、ビデオに記録された画像と音声のみを調査の対象とした.イメージ調査にはSegmental differential method(以下SD法)を使用した.SD法はOsgood,C.E.らにより提案された情緒的意味を測定する方法である。今回は、井上ら(1985)により選択された 68項目の形容詞対を質問項目として、CP児の理学療法のイメージを測定した.解答は7段階尺度とし、評点1に否定的なイメージ、評点7に肯定的なイメージを置き数量化した.ビデオ視聴前後の検定はWilcoxon signed-rank testを行い、有意差のある質問項目に対してWard法による階層的クラスター分析を実施した.統計ソフトはPASW Statistics Ver.19を使用し、危険率5%未満(p<0.05)を有意な差とした.【倫理的配慮、説明と同意】 症例または調査対象者の人権については十分考慮し、如何なる侵害も与えないようにし、症例の家族または調査対象者の自発的な自由意志を最優先にした.症例の家族に書面と口頭にて、学生に対するビデオ内容開示の許可、研究目的と研究内容に関する同意を得た.また調査対象者に対して、研究者本人が書面と口頭にて、研究目的と研究内容、研究の参加への任意性と同意撤回の自由により、決して不利益を蒙らないこと、研究協力、研究結果と授業成績は一切無関係であることについて説明を行い理解・同意を得た.【結果】 ビデオ視聴前後において68項目中32項目に有意差が認められ、30項目が否定的なイメージから肯定的なイメージへの変化を示した.有意差のある32項目をクラスター分析により4群に分類した.【考察】 今回使用したCP児の理学療法ビデオは、視聴した人のイメージを肯定的に変化させる効果があった.肯定的に変化したイメージは、元気で活発なイメージ、おしゃべりなイメージ、明るく社交的なイメージ、暖かなイメージの4群に分類できた.今回の研究では調査対象者を限定したため、一般的な有効性まで言及できないが、今後ビデオ内容の構造分析や対象条件拡大などを試みて質的研究の要素を向上させていかなければならない.【理学療法学研究としての意義】 実際の理学療法場面のビデオが視聴者に及ぼす影響を多面的にとらえて有効性を検証することで、教育や研究への効果が期待できる.また何よりも家族へ喜ばしい話題が提供できたことに本研究の意義を感じた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Bb1167-Bb1167, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547727616
  • NII論文ID
    130004692750
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.bb1167.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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