姿勢制御能を向上させるコアエクササイズ 重心動揺計を用いた解析
説明
【はじめに,目的】近年,我が国の高齢化は急速に進行しており,転倒による骨折が機転となり寝たきりとなる者の急増が大きな問題となっている。高齢者の転倒の内的要因には,感覚要因と運動要因が複雑に絡み合って発生する姿勢制御能の低下がある。姿勢制御の戦略には,Ankle strategyやHip strategy,Stepping strategyがある。我々は,これらの戦略に加え姿勢制御には,脊柱による戦略(Spinal strategyと仮に命名する)が大きく関与していると考えた。姿勢保持筋である深部体幹筋は,脊柱を分節的にコントロールする働きがあり,Spinal strategyがこの深部体幹筋によるコントロールにあたると言える。近年,深部体幹筋を促通する器具としてコアヌードルが開発された。この器具は,スポンジ製の2 本チューブを並列に連結したもので,その上で運動をすることによって深部体幹筋の活動を促通できる。本研究では,コアヌードルを用いたコアエクササイズが姿勢制御能を向上させるか否かを重心動揺計を用いて検証した。【方法】対象は,吉備国際大学の学生7 名(男性4 名,女性3 名:年齢22.0 ± 0.4 歳,身長166.0 ± 7.5cm,体重55.4 ± 11.0kg)である。姿勢制御能の評価には,重心動揺計G-620(ANIMA Co. Ltd)を用いた。測定条件は開眼と閉眼の2 条件とした。各条件下で,姿勢制御能の評価をコアエクササイズの前後で行った。評価課題は,30秒間の片脚立位保持を課した。運動課題は,コアヌードルの上で背臥位をとり以下の3 種類の運動とした。1)コアヌードルの上で背臥位となり,肩関節90 度屈曲位,肘関節伸展位にて手掌を合わせた状態で上肢を保持し,両下肢は伸展位で肩幅に開き床につけた状態を開始姿位とした。肩関節を左右交互に水平外転し開始肢位に戻す運動をメトロノームに合わせて4 秒周期で10 回行わせた。2)1)と同様に背臥位をとり,両上肢は体側で床につけた状態を開始姿位とした。両下肢を股関節90 度屈曲位,膝関節90 度屈曲位に保持し10 秒間保持させた。3)1)と2)を組み合わせた運動である。2)と同様に両下肢を挙上した状態で,1)と同様に両上肢を左右交互に水平外転させる運動をメトロノームに合わせて4 秒周期で10 回行わせた。姿勢制御能の評価パラメータとして,総軌跡長,外周面積,実効値面積を用いた。統計処理は,2 群間の比較にt-検定(対応あり)を行い,有意水準は5%にて検討した。統計解析ソフトにはStatView Version 5.0 softwareを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに当たり,吉備国際大学倫理委員会の承認を受けた。対象者に対しては,本研究における趣旨の説明を十分に行い,賛同を得た上で実施した。【結果】開眼条件では,総軌跡長は運動前106.9 ± 17.5cm,運動後100.5 ± 34.0cm,外周面積は運動前5.6 ± 1.8cm2,運動後5.7±2.9cm2,実効値面積は運動前2.6±0.6cm2,運動後2.8±1.9cm2となり,すべてのパラメータで有意差は認められなかった。一方,閉眼条件では,総軌跡長は運動前237.8 ± 50.3cm,運動後119.4 ± 39.3cm,外周面積は運動前17.5 ± 5.9cm2,運動後12.3 ± 3.5cm2,実効値面積は運動前7.5 ± 2.7cm2,運動後5.1 ± 1.1cm2となり,すべてのパラメータで減少が認められた。【考察】開眼条件では,すべてのパラメータに変化は認められなかったが,閉眼条件ではすべてのパラメータで減少が認められ,姿勢制御能の向上が示された。閉眼条件では,視覚からの情報が制限され,姿勢制御における筋骨格系や感覚系,平衡機能などの影響がより大きくなる。本研究で行った深部体幹筋へのアプローチは姿勢制御における筋骨格系や感覚系,平衡機能へ影響するものであるため,視覚情報が制限された閉眼条件でのみ減少し,開眼条件で変化が認められなかったと考える。先行研究においても,Lordらは,立位姿勢での重心動揺を測定し,閉眼立位姿勢では転倒群・非転倒群との間で重心動揺に有意差があるが,開眼立位姿勢では差が認められないことを報告している。このことから,転倒には,視覚情報が制限された場合の重心動揺が大きく影響すると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究から,深部体幹筋の促通により姿勢制御能が向上され,転倒予防効果が賦活されることが示唆された。姿勢制御の戦略には,Ankle strategyやHip strategy,Stepping strategyがあるが,姿勢制御には脊柱による戦略(Spinal strategy)が大きく関与していることが明らかとなったことは転倒予防の理学療法学研究として意義深いことである。コアヌードルを用いたコアエクササイズにより,Spinal strategyを賦活し,姿勢制御能を向上させ得たことは,今後の転倒予防に有用な情報となりうる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100870-48100870, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680547742336
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- NII論文ID
- 130004585271
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可